2009年9月5日土曜日

絵巻から飛び出したパオ

目的もなくインターネットのリンクをあれこれとクリックしているうちに、右の写真(上半分)にたどり着いた。中国の辺地を旅行する愛好家が撮ったスナップ写真だが、いつかどこかで見たことがあるような原風景で、はっと心が打たれた。

写真に写ったのは、あの万里の長城の西の端っこなる嘉峪関にある観光地の一角である。「天下第一墩」という名前で知られているもので、長城のスタート地点としてのシンボル的なものだ。「墩」とは日本語で使われていない文字だが、現代中国語ではかなり使用頻度の高いもので、ここでは土を盛り上げた台、建物の土台といったぐらいの意味を持つ。明の時代に修築した長城の土台が昔の姿をほとんど消えた形の遺跡となり、古戦場の面影を覗かせている。そこで、長城とのゆかりから、新たに復元された軍隊の駐屯地が一つのテーマ区域となり、写真に収めたものだった。

答えはすぐに思いついた。この風景の既視感は、あの絵巻の画面からくるものだった。「胡笳十八拍図」である。写真と対照して、絵巻から一つの画面から小さな一部分を取り出して、観光写真と並べた。匈奴に攫われた蔡文姫という女性が主人公を描くものだが、画面に小さく描かれたのは文姫自身ではなくて、彼女の侍女の一人だったと思われる。建物を比較すれば、絵巻に描かれた移動的なものと復元建築の半永久的なスタイル、それから規模にも使用される材料にも、多くの違いが認められよう。しかしながら、カメラアングルも関わって、なぜか両者がはっきりと繋がり、遠くにある異域や過ぎ去った古代のことに思いを馳せてしみじみとさせてくれた。

復元の建物はなにを根拠にしたのだろうか。もともと宋の絵巻など参照の対象には上らなかったのではなかろうか。そんなに昔の資料に遡らなくても、近代の記録、それになんらかの建物の実物などで十分に用を満たすことができるに違いない。いずれにしても、復元建物を捉えた観光写真のおかげで、ひさしぶりに絵巻の画面を眺め、思いに耽るひと時を得た。

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