2016年8月27日土曜日

劇画・絵師草紙

「まんが訳」。古典文学を読もうとすれば、古代と現代の言葉の差を埋めるために、作品の現代語訳が必要となる。同じく、日本語を使わない他言語の読者のためには、その国の言語に合わせた外国語訳が作成される。ならば、現代的な感性で絵巻を楽しませるには、漫画を持ってくるのがいたって自然な展開であろう。

以上の理屈に立脚して、一つの具体例を提示するために、あの「絵師草紙」を取り上げた。漫画のスタイルとして、数枚からなる一冊よりは、ユニークな体裁を獲得した四コマ漫画を選んだ。デジタルの方法で作成するので、GIFフォーマットを応用して一コマずつ動かし、さらにその中の一コマにのみ小さな動画を組み入れた。原作は三段からなる作品なので、バランスよく一段ずつ三作の、あわせて九作を仕立てた。なお、すでにデジタル化して公開されたものを利用するという漠然とした前提から、画像は国会図書館所蔵の模写を用いた。中世の絵巻を見慣れた目には、最初はかなり違和感のある画面と感じられるが、漫画というコミカルなスタイルには意外とマッチして、むしろ楽しい。

劇画と名づけて九作の四コマ漫画を小さなサイトにまとめた。今度は、作業を進めながら、完成した作を順番にSNSに公開する方法を取った。少ない数ではあるが、「いいね!」やリツイート、そしてコメントまでもらえた。それにより、予想もしなかった人々の目に触れ、自分も励ましを得て、良い経験だった。

劇画・絵師草紙

2016年8月20日土曜日

フォト・コンテスト

地元にある日本総領事館は、「フォト・コンテスト」を主催し、その授賞式が行われた。三回目に数える同行事は、年々応募作品が増え、日本との交流を形にするユニークなものとなっている。ゲストとして招待されて式に参加し、パネルに制作された作品を眺め、それを撮影した人々の話を聞き、楽しい一時を過ごした。

授賞式で挨拶に立ったのは、総領事のほか、審査員の代表の一人がいた。これまで二回、いずれも入賞の実績を持つ方で、今年は審査の立場に回った。その挨拶では、写真撮影、そしてその鑑賞について、いきなり「料理のようなものだ」と比喩し、ちょっぴり面食らった発言が飛び出した。優秀作を決めるまでの苦労を伝えようとしたものだろう。それに続いて、入賞者たちによる作品の解説が披露された。どの写真にも、それぞれの工夫や計算があり、そして忘れがたい経験や記憶が伴うものだと、数々の思い出話とともに、あらためて知らされた。

一方では、大学で日本について勉強をしている若者たちは、多く日本に出かけていても、残念なことに、いまだこのような行事に勇気をもって参加しているわけではない。それにしても、学生の一人は、入賞を果たした。作品は、スマホで撮った浅草の空。行事の間、その学生の親とゆっくり会話を交わし、子どもの成長を見守る親の視線に接することが出来て、思わぬ有意義な経験だった。

ジャパン・フォト・コンテスト2016年入賞者発表

2016年8月13日土曜日

ドイツ初期銅版画

短い日本訪問が終わり、昨日無事帰宅した。東京にいる最終日には、時間のやりくりをして、上野周辺を歩き、世界遺産ということでずいぶんと話題になった西洋美術館の中に入った。企画展として、メッケネムという、これまでにはまったく知識になかった名前とその作品群を取り上げている。駆け足で見て回った。

銅版画は、これまで翻訳されたヨーロッパ作品などであれこれと見たことがあって、西洋的なものだという印象をもつ。しかしながら、展示されたものに目を凝らしてみれば、まずはそのサイズが小さいことに意外を覚えた。あえて言えば、平均的にはあの浮世絵の半分以下だろうか。もちろん色は白黒である。西洋絵画を汲み、絵にはたしかに影があるが、それも申し訳程度で、とても写実的な油絵の比較にはならず、見るものには相当な想像力が要求されるものである。展示企画のアプローチとして、聖と俗の対立を打ち出したが、作品の内容からすれば、あきらかに前者のほうが充実している。宗教のエピソードなどは繰り返し表現されたのに対して、世俗を題材にしたものはきわめて数少ない。「挿絵」という言葉はおそらく典型的なヨーロッパの出版様式に属するものであり、それをぴったりと具体化したのは、ほかでもなく銅版画だったという認識を新たにした。

西洋美術館も、おなじく常設展なら写真撮影が可能となっている。常設展のホールでは、多くの人々が携帯電話を絵に向けている。照明は、あくまでも普通形蛍光灯。カメラにはまったく不親切な環境だが、それでも一通り記録を残すためにシャッターを押した。

聖なるもの、俗なるもの

2016年8月7日日曜日

アーカイブ

京都に来ている。数泊しかない短い滞在で、ほとんど通り過ぎの日程だが、運良く「ARC Days 2016」の開催に間に合い、押しかけて参加し、充実した発表の数々を聴講してきた。

二日にわたる今度の集まりは、今年度に採用された新たなプロジェクトの構想報告がその主な内容である。語られたテーマは、じつに多種多様で、聞く人をわくわくさせて、刺激の多いものだった。個人的には、文学、歴史、文化の文献を横断的に取り扱うSNS型電子テキストアーカイブと、ARCの所蔵に新たに加わった「酒呑童子絵巻」をめぐる総合的研究にはとりわけ興味をもった。前者は、テキストへの注目にあらたにスポットライトを当て、後者は貴重なコレクションが増えたことによる総合効果を具体的に示すものである。一方では、アーカイブが大きなキーワードになったことにちょっと意外な気持ちだった。今度の発表の中には、中国の考古成果や近代演劇記録、日本の相撲絵、はてには建築関連の都市地面情報など、じつに広い分野にわたるもので、アーカイブのデザイン、利用環境構築、新たなデータの作成など、研究の基礎になることへの注意と、地味な労力が積み重なることの意味にあらためて気付かされた。

シンポジウムの会場は、びわこくさつキャンパスにあった。ちょうど大学のオープンキャンパスがとり行われ、想像を遥かに超えた人出があった。もうすこしで会場に遅れてしまうところだった。若者たちの熱気を身近に感じ取れて、思わぬ思い出になった。

ARC Days 2016