2008年2月15日金曜日

王朝の恋

天気予報では、ずっと続いてきた冬の天気はようやく終わりが見え、これからは陽気な春が訪れてくるとのことである。気持ちの良い日差しの中を出かけて、出光美術館で開催中の「王朝の恋ー描かれた伊勢物語ー」を見てきた。

平日の午後にも関わらず、展覧会会場は大勢の人出で賑わっていた。丁寧な解説も理由となって、展示の前の列はとてもゆっくりと移動していた。おかげで、おもむろに作品を隅々まで眺める年配の方、興奮気味に語り合う若者、知人と挨拶する中年の学者、そういう観覧をする人々を観察する余裕にまでめぐまれた珍しい経験となった。

展覧会は、二つの作品(群)を眼目とした。一つは鎌倉時代に成立した『伊勢物語絵巻』、もう一つは俵屋宗達の『伊勢物語』の色紙。これに合わせて、嵯峨本の『伊勢物語』やそれと対照する御伽草子、物語の画面を組み合わせた屏風など、丁寧に選び抜かれた作品が並べられている。「東下り」「井筒」「芥川」など、物語の名場面が異なる表現媒体において描かれ、まるで豊かな音楽のように違う音色のメロディーを奏でる。展示ホールの真ん中に立ち、周りを見渡して、一つの古典のテーマが数百年の中でゆっくりだが、すこしずつ変容し、力強い流れを成して繰り広げられ、引き継がれてきた様相を絵画を通じて確認できて、まさに至福の時間だった。

会場には外国人の姿は見かけなかった。だが、展示の解説には英語の翻訳が多く見られ、しかも物語の世界には深く共鳴した労作だと分かる。一例を挙げれば、展覧のキーワードの一つには「恋の行方」が繰り返し用いられた。これに対して、「行方」を「course」だと訳された。なるほど王朝の恋を語るために、それを「結果」「結末」「果て」といったような意味合いの言葉なら、どれも納まりが悪い。「行方」との表現を、あくまでも恋の始まり、そのハイライトを現在進行形として捉えるものと理解したほうが理屈にあうことだろう。翻訳者の苦労が垣間見たような思いがした。

五週間にわたる展覧会は、今度の日曜日までで、あとはわずか二日だ。

王朝の恋―描かれた伊勢物語―

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