印象に残った会話や、それを包む人間模様を二組記しておこう。二日目の夕食に、遅くやってきて同じテーブルに着いてきたのは、見るからにエレガントな中年の夫婦だった。こちらのアジアの顔を見て、さっそく香港への経験を持ち出し、しかもなんと仕事で京都にも数ヶ月滞在したことがあると自慢した。その間の思い出はと聞けば、旅館での経験など、確かな語り口で懐かしそうに披露した。そこまで話が展開されるまえに、すでになにげなく高価なシャンパンを注文し、聞きもせずにウェターに全員分のグラスを並べさせた。しかしながら、上質なフルコースをこちらが舌鼓をしながら満喫しているところへ、前菜にもメインにも遠慮無く文句を付けて取り替えさせた。しかも夫婦ふたりともまったく同じ行動を取っていたのだから、見て見ぬふりをして理由を聞かなかいことにするほかはなかった。その翌日。今度同席したのは、いささか歳に差があるかなと思われる、綺麗な身なりをしたカップルだった。しかし、座るなり、息子さんを連れての親子関係だと自己紹介をしてくれて、まずはびっくりさせられた。若い顔をした大学生かと早合点した若い男の子は、なんとその歳はただの14歳。いざ会話が始まったらさらに感心し、若者はスポーツ好きで、いまのめり込んでいるのはアメフト、プロにはならないが、全額の奨学金で大学に入ることが目標だとすらりと言いのけた。しっかりした会話ぶりは、だれが聞いても惚れ惚れだった。一方のしゃきしゃきのお母さんは、小学校の英語教師、それこそ根からの先生気質で、どんな質問をふっかけても理路明晰に説明をしてくれた。しかしながら、フルコースの料理には、二人とも前菜もメインも二品ずつ注文し、それまたどれも半分ぐらいしか食べないで、あとは残したままだった。
いわゆる文化の違いは、暮らしの価値観に極端と現われてくる。言い換えれば、あくまでも良きように、格好良く振る舞っているつもりであろうが、それは異なる価値観の立場からすれば、とても真似ができない。理解してあげよう、それがこちらとしてわずかにできることなのだ。
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