「平家」をテーマにした研究書が刊行された。絵巻に描かれた平家伝説を取り上げた一章を寄稿させてもらい、印刷されたものがようやく手元に届いた。同じテーマの研究集会が開催されてから、すでに四年以上経った。そこでの口頭発表に先立って原稿を提出していたのだから、この一章を書き出したのは随分まえだった。かなりの編集作業を通じて活字となり、研究集会の主催者である編集の二方には、ずいぶんとお世話になり、いろいろな意味で教わった。
あの源平の戦や平家の人物を取り上げる絵巻は、あまり伝わっていない。その中で一番古いものに属する「清水寺縁起」の中の一場面を考察の対象とした。いわゆる観音菩薩の霊験談である。処刑の場において奇跡が起こり、首斬りの瞬間から盛久が助かった。絵巻の読み方として、構図にじっくりと取り掛かろうと、あれこれとアプローチを試みた。もともと、首斬りの処刑という究極な状況となれば、物語のハイライトとして多く表現される内容であり、関連の実例を集めようとする作業は、さっそくかなりの数に到達した。そこから共通項や特殊例、言い換えれば画面構成における常態とその変形を分析し、絵画表現の一端に触れようとするのが、この一章を書いたときの立場だった。
盛久の奇跡の描き方、それが絵画伝統の中での位置づけ、それまでの表現の受け継ぎと新たな変化、これらの設問から出発した読み方は、そのまま構図のパターンへの注目に繋がり、やがて「絵巻の文法」とまとめるものの大事な柱となった。ただ、活字になった順番は、使用言語や出版状況の理由もあり、前後逆になった。この経緯も、あわせてここに記しておきたい。
Lovable Losers: The Heike in Action and Memory
2015年12月21日月曜日
盛久の奇跡
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