雑誌『中国21』(愛知大学現代中国学会)Vol.51は、「デジタル資料と学術の未来」と題する特集号を刊行した。雑誌名通りに中国の、それも21世紀の状況のみを対象にしてこのテーマを取り上げても十分にしかるべき内容が集まるのではないかと想像するが、それよりも、あえて「デジタル」における洋の東西にわたる発展を一望するような構成になっている。編集者の慧眼や意気込みが感じられた。
242頁にわたる充実な一冊は、デジタル技術、図書館やアーカイブの運営、中国学術史の分野の識者による座談を巻頭に置き、論説には、日本、ヨーロッパ、中国のそれぞれにおけるプロジェクト例や研究例、デジタル化の歴史と現状などを取り上げる七本を載せた。デジタル時代における「新しい人文知」(内田慶市)を概観し、激しく移り変わる現在を知る貴重な特集である。個人的に一番勉強になったのは、慶応大学図書館・メディアセンターの事業を振り返りながら紙と電子の図書館を論じた一篇(入江伸)である。資料を利用する立場にいて、つい当たり前のように期待ばかりすることを反省しつつ、その資料を提供する側の苦労、とりわけ激しく変容し、進化する技術環境に翻弄されざるを得ない現状についてあらためて気づかされた。これまで個人的にも頼りにしていたプロジェクトの規模、それにかけた関係者のエネルギー、そして公開終了の結末などをつい思い起こし、デジタル時代の激変や新しいメディアの形成をめぐり考えを巡らした。ちなみに、自分のこれまでのきわめて規模の小さいプロジェクトの数々やそれらに託した思いを纏め、論説の一篇に加えさせてもらった。
『中国21』は、商業出版の形で発行しながら、一定の時期を経てから愛知大学リポジトリで全文公開することになっている。現在公開されている最新号は2018年3月発行の49号である。すこし先のことだが、いずれオープンデータとして読めるようになるだろう。海外からは待ち望んでいる。
『中国21』Vol.51「デジタル資料と学術の未来」
2020年3月7日土曜日
新しい人文知
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