2020年12月19日土曜日

朗読・随想

先週、朗読動画『猫のさうし』を公開したら、数件の暖かい反応が聞えてきた。さっそく全文を聞き通した、これから聞く予定だなど、友人知人からのコメントが寄せられた。嬉しい励ましだった。一方では、朗読作品の制作ということに関連して、新たな実践、一つのビジネス形態、ひいては社会との接し方などの立場から、刺激となる記事が絶えず目に入った。

動画に仕立てたのは、対象が古典であり、かつ文字情報も吸収してもらいたいという狙いから出発したからだ。ただ、その中心はあくまでも朗読である。音声を媒体にしたもう一つの読書の経験を提言したい。デジタル環境が普及する中、読書の形態はずいぶんと変わった。紙と電子デバイスとの展開がまずあり、紙でなければ読書した気がしないと感じる人もいれば、電子だとかえって落ち着く人もいる。そこに音声というまったく異なる次元が加わった。極端に言えば、読書に対する新たな時間軸が現われ、読み進めるスピードを読者から取り上げてしまう形態なのだ。この事実を、多くの耳で読書する読者はどこまで意識しているのだろうか。

個人的には音声による読書をずいぶんと前から続けてきた。図書館から借りるオーディオテープから始まり、オンランで購入するオーディオブック、テキストファイルを用いての自動朗読など、さまざまな方法を用い、聞く読書の経験としてははるかに平均以上だと自負している。ただ、これを自慢にしていながらも、激しく移り変わる音声環境に直面して、新しい読書経験の獲得と共有には、まだまだ入り口に立ったばかりだと感じずにはいられない。

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