2022年1月8日土曜日

将軍時宗

黄表紙の作品を読んでいくと、当世の浮世ものがさかんに描かれるなか、数は多くないが、歴史上の出来事に装っての物語があった。その中には、時々あっとさせられるものが混じり込む。つぎのは、その一例である。

蓬萊山人亀遊の作なる『敵討女鉢木(かたきうちおんなはちのき)』(安永六年刊)。親の敵を討つけな気な二人姉妹の地味な物語だが、その出だしの一行は読む人を怪訝に思わせる。「かまくら六代将軍北条時宗公のおんときに…」(写真は東京都立中央図書館加賀文庫蔵より)。時宗を含め、北条家の面々が幕府の実権を握っていたとは言え、いつ将軍にまでなったのかよと、ツッコミを入れたくなる。あの蒙古襲来に当たって懸命に奮戦した北条時宗、同時期の「宮将軍」宗尊親王はたしかに六代だと数える。妙に現実感があって明らかに大らかな書きぶりは、あるいはまさに黄表紙の不思議な魅力の一つだったかもしれない。ちなみに、この作より遥か影響力があって広く読まれた『敵討義女英』(寛政七年刊)も、似たように「かまくら三代将軍源の実朝公のころかとよ」と語り始める。いうまでもなく、二作とも物語の内容はこのような時間の設定とはまったく関係なく展開された。そもそも「かまくら」と語り出すことの意識そのものが今日になったら図りがたいものとなったと言わざるを得ない。

思いがこのようなところに行き来することは、いうまでもなく大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に惹かれたものだ。いまや「北条」、「義時」、そしてけっして聞きなれない「鎌倉殿」の言葉がテレビ画面に溢れる。はたしてどのようなドラマになるのやら、あと数時間で初回放送となり、楽しみだ。

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