カナダ日本研究学会(JSAC)に参加するためにここトロントに来ている。年に一度の集まりであり、去年もトロントにあるべつの大学での開催だったので、二年連続、同じ学会に出かけるためにトロントに旅行したことになる。空路四時間、時差二時間、それに日常の勤務をできるだけ邪魔したくないとの思いもあって、やむをえず夜行飛行機を選んでの、切り詰めたスケジュールだ。
この学会の特徴は、共通項が日本のみで、あとは研究分野のかなり離れた学者たちの発表が聞ける、普段あまり交流する機会のない人々とも真剣に会話ができる、ということがあげられる。その中では、今年の研究発表には、なぜか「デジタル」と名乗るものが多くて、嬉しかった。その数は、基調講演も含めてじつに四本。とりわけ感銘をうけた二つについて、印象を記しておこう。
一つは、立命館大学の「日本文化デジタル・ヒュマニティーズ拠点」が構築している数々のデータベース、そして広い意味の文化的な事項を対象にしたビジュアル的な表現である。古典文献とかかわりのある分野では、文字、画像資料をデジタル撮影した上でそれを検索できる形で一般公開し、そして資料の持ち主にデジタルの成果をそっくりそのまま返し、公開をしてくれる、普通に利用できることのみを期待するという立場、方針も、じつに明快で頷ける。とりあげる対象は、若者たちが関心をもつゲーム、いまだ可能性をさぐる段階のCGバーチャル画像や動画など、広範囲に亘る一方、在来の研究への直接な貢献の可能性を具体的に考えていて、しかも学生を育てるという課題までたしかな形で実践している。高度な学際的な繋がり、分野の異なる人間の横の協力のありかたが強く感じさせてくれた。
もう一つは、MITの「オープンキャンパス」の一環として完成された「バーチャルカルチャー」プロジェクトだ。こちらのほうは、「視覚的な叙述」というコンセプトを中心に据え、選び抜かれた画像の提示と、それについての高質な解説を内容とする。サイトにアクセスすると、とにかく凝りに凝ったデザインに目を瞠る。対象とする画像は、はがきなど特殊なコレクション、老舗の化粧品会社から提供された長年蓄積されたデータ、美術館など公開されている資料など、さまざまとあるが、それぞれの資料群へのアクセスを丁寧に工夫し、データの選択、それを用いての情報提供の仕方は、鮮やかという一言に尽きる。日本文化を論じてすでに名を成した大家が熱心に企画を立て、署名で解説を書く。一つの学術活動として、在来の出版という形態との比較など、制作者本人まで気になっているらしいが、普通の入門書が持ちえない優れた要素を力強く示していることは明らかだ。
なお、このような発表にまじって、最近制作、公開した「音読・日本の絵巻」の六作目、「音読・白鼠弥兵衛物語」のことを簡単に報告した。
日本文化デジタル・ヒュマニティーズ拠点
MIT Visualizing Cultures
2008年10月5日日曜日
JSAC・2008
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