2017年4月22日土曜日

陣中の露店

屏風絵の読み方というようなものはきっとあると思う。ただ、なかなか分からない。たしかに絵巻の流れを汲み、場合によっては絵巻そのものの構図までこっそり拝借したような作品まで作成されていた(「保元平治物語屏風」「帝鑑図・咸陽宮図屏風」など)。ただやはり特殊な作例にすぎない。対して名所絵、合戦絵などとなれば、はっきりした物語が添えられていない分、どうしてもとっつきにくい。

たとえばつぎの一コマである。「大阪冬の陣図屏風」(大阪城天守閣蔵)右隻一扇に描かれ、「陣中の露店」とでも名付けてよかろう。陣笠を被り、胴丸や鎧を纏い、太刀や槍を構えた若武者たちは、戦場を走り回るそのままの格好である。一方、そのような彼らを相手に熟練にあしらえているのは、余裕綽々の店主であり、後ろに張り巡らした幕により、専用の空間が作り出されている。しかも店と客との関係を強調しようと、わざわざ値を払う様子がクローズアップされ、一種の貨幣経済の様態まで活写されている。特定のストーリがない中、絵画表現は饒舌なほど状況の詳細を伝えようと訴えている。

しかしながら、このような構図をもって、大阪の陣の様子をそのまま理解してはたして構わないだろうか。「今昔物語」に収められた蛇の肉を太刀帯に売り歩くあのエピソードはすぐに思い出される。ただ、万人単位に集まった戦場において、このような状況の存在はあまりにも想像できない。はたして日常と非日常が融合された戦場風景の極致だろうか、はたまた絵をもって虚構された理想あるいは遊びの空言だろうか。

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