すでに先月のことになるが、人文学オープンデータ共同利用センターが「篆書字体データセット」を公開し、あわせてそれを利用する「篆書データベース」を提供した。篆書書体の検索、識別、利用などにおいて強力なツールが生れた。
このデータセットは、複数の組織が制作し、公開したデジタル画像を集めたものである。対象となるのは、『金石韻府』など七点の資料に収録された7,681文字の106,447字形である。IIIFというデジタル画像公開のスタンダードはこのデータセットを技術的に支えていることはいうを待たない。一方では、これだけの文字にアクセスするためには、文字ベースの検索が現実的に必要となる。ただし、いま公開のデータベースはいまだ限定的なものだと思われる。一例として、自分の名前に入っている文字を使って試してみたが、「暁」には一字形しか戻ってこなかったことには驚いた。よく考えてみれば、これはいわゆる日本の略字であり、対して「曉」があるのだ。はたしてこちらで試したら、四つの資料から八つの字形が現われた。ただ、こうなれば「暁」に対応するとされる字形の認定が問題となってしまう。似たような文字例で言えば、「劍」には六つの字形、「劔」には四つの字形が収録されているが、後者の四つは前者にも収録され、前者にある字形の二つは後者に収録されていない。ちなみに「剱」「剣」は登録なしとされている。字形の認定において方針が統一されていないことがはっきりと見てとれる。個人的には、篆書に一番頻繁に接したのは、学生時代、篆刻に打ち込んだころの数年間だった。篆書をきちんと覚えたわけではなく、あくまでも必要に応じて字形を集めて石に彫ったばかりだった。いまから思えば、勉強の仕方が間違っていたといわざるをえない。ただ、その過程であれこれの辞書に馴染むことができた。思えば、あのころこのような便利な環境があったら、きっとさらに違う形で篆書を理解しようとしたに違いない。
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