2011年2月5日土曜日

「車争図屏風」を学生と見る

講義の場では、画像資料をオンラインでアクセスして見せるということは、昔の紙のレジュメが比較にならないぐらいの迫真さ、使いやすさを持つ。ただ、限られた時間の中で絵を見せることは、かならずしも効果的なものではなく、かといって、ただリンクを教えてあげても、どれぐらいの学生が見てくれるのやら、心もとない。その中で、スケジュールをやりくりして、とにかく絵をスクリーンに持ち出した。

110205講義のテーマは、「源氏物語・葵」、タイラー氏の英語訳を二週間ほどの時間をかけて学生たちと読む。あまりにも基礎知識を持ち合わせていない学生には、あの英訳でも学術的な注意が払われすぎた感じがして、理解することはかならずしも簡単ではない。やむをえず思い切りストーリのラインを追いなさい、とのアドバイスで対応した。その中で用いたのは、「e国宝」で公開されている「車争図屏風」。ストーリの場面や雰囲気を味わうためには、非常にためになった。源氏が中心を構える派手やパレードと、轟々とした荒声まで聞こえききそうな喧嘩という、二つのエピソードによる構成は、いたって分かりやすい。

画面をじっくりと眺めた。とにかくりっぱだ。しかもどこかコミカルで誇張されたのが微笑ましい。その一番には、牛車のサイズがあげられるだろう。屋形の高さは、「延喜内匠式」によれば3尺4寸、一メータをちょっと超えたところだろうか。だが、屏風に描かれたのは、人間の平均的な身長などから推算して、これの倍には優になる。それが巨大な車輪に乗せて、牛車の全体の高さはおそらく五メートルにまで届き、思うに屋形の中で女房たちは座るのではなく、数人にして踊りでもしているのではないかと空想してしまった。ただし、一枚の襖絵あるいは屏風としては、その分、たしかに迫力がある。

狩野山楽筆「車争図屏風」

0 件のコメント: