2011年2月19日土曜日

裏も表も絵巻になる

今週、あの国宝「鳥獣戯画」が新聞を賑わせた。絵巻の一部は、もともと一枚の紙の裏と表に描かれ、それが二枚に剥がされて、台紙に貼り付けて一巻に仕立てられたものだと、絵巻に関心をもつ者にはちょっぴり衝撃的な発見が報道された。

110219ことの詳細はいまは新聞記事に伝えられたものに留まる。そこから総合して得た情報によれば、一枚の紙の裏表に人物と動物が分かれて描かれ、それも人物が先で動物が後だった。これを分離し、台紙に貼り付けて巻物に仕立てたのは江戸時代だと思われる。以上の情報からはつぎの推論が自然に導かれる。江戸までには、絵のどちら側にも台紙が付かなかった。すなわちまとめて保存されていただろうが、普通の巻物ではなかった。さらに遡って考えれば、絵の制作当初は、人物と動物というさほど関連性のないものを物理的に一枚の紙を用いた。紙がこの上ない貴重品だったという客観的な理由がもちろん働いたのだろうが、古典文献によく見る「紙背文書」とはまた異なる成立の理由の存在を思わせる。もちろん理由を突き止めることはなによりもの魅力的な課題だ。

中国美術史の上で、絵の偽造に関わってよく知られている一つのやり方がある。表装のやり直しなどの際、一枚の絵を二枚に剥がし、それにより一枚の絵から同じ絵柄が描かれる二枚の絵が得られるというものである。「鳥獣戯画」をめぐる発見からはどうしてもそれを連想させられるが、結果はまるで違う。なによりも、江戸の表装師のおかげで、国宝なるりっぱな巻物が今日に伝わっているのだ。

朝日新聞:鳥獣戯画・技法解明

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