2011年3月19日土曜日

べんけい

今週の講義テーマは、謡曲「船弁慶」。たしかに学生時代には能楽堂でこの演目を実際に見たものだと思うが、たしかな記録を辿るよしもなく、気持ちを集中してテキストに立ち向かった。こんなに短いテキストだとは言え、内容が多岐にわたり、講義のためにはむしろどこから削り取り、なにを省略するかを考えざるをえなかった。しかも、読み進めていくうちに、まったく関係ないものまで目に飛び込んできた。

110319なにげなく「弁慶」という条目を国語辞書で確認すると、そこには、現代生活に関連する使い方として、台所道具との一項があった。思わず目を凝らした。自分の語彙リスト、いやそもそもそれに対応する知識として、まったく持ち合わせていないものだった。はたして実際の生活のどのような場面で出会うものかと、首傾げながら読み返した。インターネットで調べてみても、一部に相当する画像はあるにはあった。いわゆる藁で出来た、伝統農家の博物館に陳列するようなものだった。対して竹の筒で出来たものだといわれる現代のキッチンに登場するだと言われるものは、つい見かけなかった。「べんけい」と表記すべきだろうか。考えてみれば、はなはだビジュアルなネーミングに違いない。「七つ道具」を身の上とする弁慶ならではのものであり、かれを勇姿を囲炉裏の傍でつねに思い起こし続けるということは、きっとどこか気持ちのいいものだったに違いない。

講義そのものは、残り時間二分のところで、ようやく「判官贔屓」を黒板に書き出した。若い学生たちには、それがどこまで通じたのやら、心もとない。いつものことながら、だれかが、将来いつかはためになったと思えるような、一つのタネでも思いに蒔いたとすればいいなあと、願いつつ。

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