大学では今学期の最後のクラスを迎えた。例年ならいつも学生の発表に割り当てたが、今年は、まとめて画像資料を見せることにした。画像のことをクラスで口ばかりで説明してきたこともあって、学生たちは素直で熱心に見てくれた。そこで、見せる立場にいる自分は、これを準備するなどにおいて、やはりデジタルリソースの存在が助かった。
一例として、ボストン美術館に所蔵されている宋時代の絵師による「九歌図」があげられる。中国絵巻を伝えるためには非常によい実例で、構図から画面の細部まで、見ごたえの要点は数え切れない。とりわけクラスでは「山鬼」の一章を取り上げたので、美しい女性に描かれたその姿は、実際に見てみないと、言葉だけでは伝えきれない。しかしながら、いざ絵を見せようとすれば、やはり簡単には手に入らない。美術館の公式サイトは一通り全点の画像を載せていて、考えようによれば、並たいていの印刷物のカタログには相当していても劣らないぐらいの内容はすでに与えられていて、すでに十分に期待が応えられていると言えないこともない。だが、何気なく調べてみたら、やはり驚いた。ずいぶんと高い画質の画像がインターネットに載せられているだけではなく、どうやら特殊光線を施して撮影された画像まで簡単にアクセスできた。資料の性格から考えて、きっと美術館関係での作業の結果に違いない。ただし、それは美術館関係で正式に公開されたものではないことだけは、残念でならない。よく言えば熱心な愛好者たちの持ち合わせの資料の交換であり、悪く言えば、いわゆる「非法コピー」で一括して捉えられているものである。
絵巻研究において、カラー図版の出版によって開かれた環境の躍進やそれによってもたらされたインパクトは、いまだに語り継がれている。そのような経験についての記憶がいまだに鮮やかなだけに、電子データによる伝播の時代に踏み入れたいま、如何にして可能性を現実に変えられるか、やはり大きな課題なのである。
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