2011年4月2日土曜日

絵と文字と

今週の講義テーマは、中国古代詩人屈原の詩を題材にする「九歌図」。一時間ずつの二回の講義では、集中して話を聞いてもらいたいとの思いから、絵を出さず、絵を見つめることをクラスの後の復習の作業に回した。

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「九歌図」と名乗る作品は、大きく二つの流れを持つ。中では、祭儀の様子などを内容にした、構図的には明らかに古いものは、なぜか関心の度合いが低い。作品に記された制作時間と、文字遣いからみた内部証拠と矛盾し、記録の内容が信用できないことがその一番の理由だとされる。代わりに、元の絵師張渥の作が多くの注目を集める。九つの詩(歌)にそれぞれの肖像画風の絵を当て、詩を絵の後に添えるというスタイルを取る。それぞれの絵は、互いに関連を持たず、しかもほとんどの構図は、文字が左へ展開するのに対して、反対の右向きになり、巻物という特性を考慮したとは思えないし、われわれが持つ絵巻に対する常識がほとんど通用しない。ちなみに同じ作品は世界中に五点以上の伝本が報告されるが、それらすべて同じ画家の作だとはとても考えられないが、判断するための確かな手がかりがないままである。

屈原の歌を記した文字そのものが興味深い。伝本の一つは隷書を用いた。制作者としては一番古風の文字を選んだとの自負でも持ち合わせていたのだろう。ただし、隷書は確かに中国歴史上の最初に統一された文字だ。ただ、屈原の生涯は、まさにそのような秦の統一に反抗して自ら命まで絶ったものだった。そのような考えは、絵巻成立の時点から見て、すでに千年も前のこととなり、なんら意義を持たないものになったと考えられていたに違いない。

吉林省博物館蔵「九歌図」

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