今週の間、複数のニュースメディアが伝えた新発見の一つには、絵巻の制作に関わるものがあった。国宝「源氏物語絵巻」を、その所蔵者主催の修理に当たり、新しい下描きが見つかったとのことだ。いわゆる絵巻についての赤外線写真はすでに数十年まえから絵巻を観察、記録するために応用され、どうしていまさらそれによる白黒の写真があらためて公表されるかと、最初のうちはよく理解できなかったが、よく聞いたり、関連の記事を読んだりして、すこしずつ発見の内容が分かるようになった。
いまだ詳細な報告に接しておらず、完璧に理解している自信がないが、どうやらこんどの発見は、最終的な絵の具によって隠された下絵ではなく、あくまでも別の紙に描かれた、最終作の原案になる下描きなのだ。そのような下描きは、なぜか廃棄されるのではなく、絵巻の下打ちに利用され、そのため剥がされて、貴重な内容があるのだと気付かされた、という内容らしい。そのため、下描きはあくまでも最終作のおよその指標であり、完成までには大きく修正されるようになる。そこで、一番分かりやすい実例として、源氏に抱かれた新生児の薫が大きく紹介されている。完成された画面で見られるおとなしい赤ちゃんと違い、薫は両手を大きく差し伸べている。複雑に絡む人間関係と激しく巡らされる主人公の思いを、わずか一枚の絵の空間に収めるために、絵師の苦慮や創意が語り尽くせないほど託されている。下描きと完成作品との間のあまりにも離れた距離、二つの絵によるまったく異なるアプローチなど、絵巻を読解するうえで、この分かりやすくてインパクトの強い実例は、これからもくりかえし語られることだろう。
一方では、毎日見慣れているNHKのニュースキャスターの口から、絵巻の謎やら、構図やらの語彙が淀みなく語られたのを聞いて、古典の絵画とは、けっして狭い学問の世界に閉じ込められたものではないということをあらためて、しかも鮮明に思い知らされた。
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