2015年11月7日土曜日

女方の手

映画館のスクリーンで歌舞伎を見る。考えてみればあってもおかしくないものだが、これまでには一度もそういう経験をしていない。先日、そのような上映がこの町にやってきた。都市の中心に位置する映画館でとり行われ、それも歌舞ものと人情ものの二部構成で、二つとも堪能させてもらった。

舞台で行われるものをスクリーンで見ておこうと決めてしまえば、あとは意外と楽しいことがいっぱい付いてくる。実際に舞台を前にして座っていてもけっして充分に吸収できない細部まで、じっくり、ゆったり、思う存分に見つめることが出来る。そのようにして、新たに気付かされることはいくらでもあった。一例をあげてみれば、女方の手だ。歌舞伎の舞台では、女方の演技は、考えようによればまるで人間の奇跡に近い。端正な顔立ちと上品な仕草によって表現された女性の姿は、大きなスクリーンに映しだされていても、まったくカメラ負けはしない。一方で20151107は、髪の毛も化粧も大きくクローズアップされてはっきりと伝えられているなか、個人的には、女方の手が視覚的にどうしても気になる。顔や姿があまりにも美しいだけに、その手が、役者のほんとうの性別を頑固に訴えているように思えてならない。あるいは、長い歌舞伎の伝統においても、手の表現までとくべつに工夫をしていない、ということだろうか。

映画になった歌舞伎は、「シネマ歌舞伎」とのブランドネームを用いている。しかも、作品によっては、過剰なカメラアングルを用いたりはしないが、トップクラスの監督の名前を前面におし出している。古典芸能としての歌舞伎を広めたり記録したりするには、素晴らしいアプローチなのだ。もうすこし多く作られるべきだろう。

CINEMA KABUKI Performances

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