2019年6月15日土曜日

女装少年

図書館や本屋に入らないと手に入れることがないだろうと思われる本は、たくさんある。そのような本との出会いは、いつも日本滞在の楽しみの一つだ。今度、特筆すべきタイトルは、三か月ほどまえ出版された「室町時代の女装少年X姫」である。物語絵巻「ちごいま」を取り上げ、まさに豊穣な室町物語の一端を現代の読者の読み方にそって丁寧に切り盛りした上質な一冊である。

物語の主人公は、いわゆる児(ちご)である。かれのことを、「男の娘」、「女装少年」と、おもいっきりいま風の表現で捉えた。普段からは馴染みの薄く、なによりも性というテーマが中心に据えられる存在である。しかしながら、男性にいまだなり切れていない性、男性から性の対象とされる性といった、なんとなく漠然とした認識からは大きく逸脱し、いってみればそれとはまったく異質な、真逆な展開である。主人公の児は、憧れの姫に大胆なラブコールを仕掛けるだけではなく、姫には性への目覚めを手ほどきし、ひいては妊娠、出産にまで、性の極端を極めさせた。ここにみる稚児という性は、周囲へのカモフラージュに過ぎず、しかも稚児から男性性への成長はまったく含まれず、稚児への上記の認識を大きく改めてしまう物語だった。

室町の絵物語を紹介する工夫は、この一冊の中、いたるところに詰められている。現代語で読ませ、絵に描かれた対話は漫画風の吹き出しに纏め、人物紹介に顔写真を添える。一方では、物語の展開を伝えるには、「恋」や「冒険」などのキーワードはどうも弱い。物語の訴えようとするところ、そしていまの読者に対する衝撃を、さらに一段と鮮明な言葉が考えられなかったのだろうか。

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