2019年6月22日土曜日

書籍の変貌

右のページを見れば、古典に関心をもつ人なら簡単にその内容を心得ることだろう。江戸時代に膨大な出版の点数をほこる絵入り百人一首の一枚に違いない。歌人は凡河内躬恒、歌は「心あてに」、加えるに上段の小さい文字による文章は歌への注釈、あるいは読みへの指南である。ここには、「陰」と「陽」、「男の道」と「女の道」云々の倫理説教まで展開されて、百人一首の享受において一つのユニークな光景かと想像している。

しかしながら、ここではこの一枚の物理的な特徴に注目してもらいたい。明らかに一冊の版本を崩し、外した一帖をさらに二つに切り、それを硬めの白紙に貼り付け、無造作にビニール袋に入れたものである。いまやインバウンドなどの表現に捉えられる観光客を相手にした商売の一様相である。書籍の一冊は、商品として価値には限界があるのに対して、その形態を惜しみなく壊し、読み物ではなく飾りや鑑賞の画像として変貌させたのだ。おそらく商品価値は数倍も跳ね上がったのではなかろうか。

読めそうで読めない文字、妙なポーズをする人物、ひいては墨の色も紙の汚れ具合まで神秘な日本を訴えていると言えないこともない。ただ、そのために、かつて書籍だったということに目をつぶっていたほうが望ましいかもしれない。

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