ここ数日、「十二類合戦絵巻」をあらためて読み返している。画面の中にふんだんに書き込まれた文字テキスト、いわゆる画中詞として捉えられるそのスタイルは、室町時代の絵巻の一つの基本的な特徴として指摘されている。ただ、人物発言の順番を指し示す数字は、やはり目を惹き、考えさせられる。
思えば、これらの漢数字は、文字と絵との関連性において、すくなくともつぎのような三つの大切なヒントを残してくれている。まず、物語を伝える画面は、なによりもビジュアル的な要素やバランスを基に構成されたものだ。絵が中心になっているからこそ、文字はそれに追随する形で加えられ、既成の絵に制約されながら書き入れられた。一方では、数字を駆使するまでして物語の展開を示すところに、文字と絵とによる叙事の流れの違いを端的に表している。絵とは異なるストーリの流れを、文字が自覚し、主張しているからこそ、数字という手っ取り早い方法を案出したものだった。最後に、このような処置の対極に位置する平安時代の「散らし書き」を思い出してしまう。文字をビジュアルに楽しもうとする極致な到達は、ときには謎掛けまでに仕掛け、読む人に無言に挑んだものだった。室町時代の物語においては、そのような悠長な余裕はとっくになくなり、あるいは根本的に異なる物語享受のリズムが生まれたと考えるべきだろう。
写真は、チェスタービーティライブラリ蔵の模写からの一部である。画中詞はところどころ脱落も見られるが、数字は丁寧に模写されていることを付記しておきたい。
2019年6月30日日曜日
画中詞の順番
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