2019年7月6日土曜日

騎士の夢

「騎士の夢」(または「スキピオの夢」)という名画がある。ルネサンス期のイタリア画家ラファエロ・サンティによって十六世紀初頭に制作された。絵の内容を知り、そして絵画的表現の方法などを見つめて、どうしても玄奘三蔵の夢を思い出す。もともと後者を伝えてくれた「玄奘三蔵絵」は、ルネサンスよりさらに百五十年ほど遡る作品である。

古代ローマの騎士スキピオが見た夢には、二人の美女が登場した。それぞれ美徳と快楽を代表し、学識と武術、愛情と家庭を象徴する品物を差し出し、はたして二者択一か、二者共有かということは、鑑賞者の立場によって解釈が異なる。一方の玄奘が見た夢には、凄まじい形相の大神が現れた。経典を求める道に就いた玄奘には怠りや危険を恐れる思いを持たないようにかれを奮い立たせる。夢見る人の姿と、その夢の中身という、二つの別個の世界が絵画的に切り離されることはなく、鑑賞者は、眠っている主人公の様子を確認したうえで、眠りの中に入り込んで夢の様子を目の当たりにするという、言ってみれば入り込んだ構図が表現の根底になっている。言ってみれば、絵を理解するにはかなりの教養が要求されていた。

鎌倉時代の絵巻には、さらに「男衾三郎絵巻」に描かれた夢があった。まったく同じ構図の原理に基づき、その成立はさらに百年も近く前に遡る。しかもこちらの夢の主人公は、戦場から主人の首を持ち帰る従者であり、まさに騎士である。

「騎士の夢」(ラファエロ・サンティ)

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