NHKの「よるドラ」『いいね!光源氏くん』は、ささやかな話題を呼んでいる。完結までには残り最終回のみ。奇想天外な展開は、予想もつかない愛らしい源氏のイメージを作り出して、なかなか楽しい。一方では、画面を眺めていて、その烏帽子の被り方は、ちょっと気になった。
絵巻などを見慣れた目には、烏帽子姿の後ろは、きまって首筋に対してはみ出した三角形の空間ができていることに覚えがある。言い換えれば、烏帽子は頭で被るよりも、大きく出来上がった髻結いをもって受け止め、覆い被らせるものだった。そのため、烏帽子の風口を髪の毛にぴったり付けたいま風の帽子の格好は、たしかにすっきりしているかもしれないが、どうしてもちょっぴり野暮な印象が拭いえない。もともと、このような観察を思いつかせた直接のきっかけは、近頃なにげなく覗いたハーバード大学蔵の『鼠の草紙』だった。それの第三段、猫に怯えて貴紳の新郎に変身した鼠が本来の姿に戻ろうとした瞬間を伝える。全身に生えた毛が現れようとして、その異様な前触れは烏帽子に隠された鬢髪から発生した。中世の読者たちには、これはきっと一番ショッキング的な視覚構成だったのだろう。いわば男前の一番の見せ所に思いもよらない異変が起こったのだから、普通の目には堪らなかった。
ちなみに、奈良絵本絵巻として間違いなく傑作に属する『鼠の草紙』だが、それのデジタル公開において、Harvard Art Museumsは素晴らしいテンプレートを用意した。ぜひ一度披いて御覧ください。
2020年5月16日土曜日
烏帽子姿
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