酒を飲むことに関連して言えば、日本は間違いなく独特な仕来りを持っている。集団の親睦、年中行事、趣味の集まりなど、さまざまな局面において酒は大事な役割を果たす。しかもこれには厳然とした伝統があるものだ。そのような古い記述に出会うと、思わず膝を叩く。
『徒然草』百七十五段は、このテーマを記して、まさに傑作だ。兼好の筆に掛かれば、酒飲みにみる人間模様は、とりもなおさず「世に心えぬ事」、すなわち理解不可能な部類に入る。そこで、酒宴に見られるさまざまな醜態、狂態は、これでもかと書き並べられる。いわば、酒を無理やり勧める、一旦飲み出すと狂った人格に化ける、酒が入ったらばったり倒れてしまう、だらしない食べ方をする、当たりかまわずに踊りだす、聞かれてもいない身の上話をし出して泣き崩れる、喧嘩を始める、大事なものを壊す、人前なのに吐き出す、などなど。一方では、酒には罪がなく、以上のような飲み方がすべてだとは言わない。理想とする飲み方はもちろんある。それは、月の夜や雪の朝にゆっくり飲む、思わぬ友人が訪ねてもてなす、旅の途中で大した肴がなくて芝生の上で飲む、などがあげられた。数えてみれば、じつに二十近くの場面に上る。
個人的に試みた「注釈絵で読む徒然草」は、いつの間にかすでに四十九回と数えた。いまだ「四コマ」という枠組みを守っている。そこでこの段になると、どう対応すべきだろうか。兼好がスケッチしてくれた活劇はあまりにも面白く、絵の注釈もいきいきとしていて、簡単には割愛できない。この段には、やはり特別待遇を与えて、盛りだくさんで行こうと、いまは考えている。
2020年5月30日土曜日
酒飲みのこと
Labels: 内と外・過去と現在
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