ハーバード大学蔵「鼠の草紙」は、じつに楽しい作品である。詞書と絵はあわせて三段ずつ、数えて詞書は九十一行、絵は十の場面、文字よりも絵のほうが用いた紙幅が大きいという、豪華な巻物である。絵の画風は間違いなく奈良絵本のそれだが、しかしながらその内容は絵巻の正統を受け継ぐものであり、叙事の方法はとにかく饒舌で魅力的だ。絵画の詳細をつい見つめたくなる。
第一段は、貴公子の来訪。質素な生活ぶりがテーマとなるが、竈が設えた土間では下女が洗濯に励み、その方法とは服を畳んで杵で叩く。女性主人公の最初の登場は一家に囲まれたものであり、書物を大きく開いてみんなに読み聞かせた。つぎにどこからともなく現れた男と対面するが、はっきりした距離を保っていた。第二段、貴公子の出現で家の様子が一変する。届けられた様々な品物は豪華な着物や反物を含み、新鮮な魚はさっそく猫に睨まれた。破れた縁側は敷き替えられ、新しい御簾や障子に囲まれた室内では貴公子を中心に酒宴が酣を迎える。第三段、物語の滑稽で悲しい結末。求婚する貴公子は、右手に扇子を弄び、柄を畳みに押し付けて優雅に構える。異常に猫が気づき、酒宴の場を狙う。猫を前にして貴公子は慄き、鬢の髪が乱れた。本来の姿に戻った鼠は無残にも猫に咥えられ、これを目撃して主人公の女性は泣き崩れ、驚いた下女はもろ手を挙げる。
MOOC授業「Japanese Books: From Manuscript to Print」は、モジュール2においてこの作品を解説した。英語によるものだが、音声内容を記録したテキストが連動しているので、視聴をお勧めしたい。
2020年5月23日土曜日
鼠の草紙
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