2020年6月20日土曜日

くずし字

つぎの文字は、寛政九年(1797)刊の『絵本太閤記』の一頁(初編巻之九十二オ)から無造作に選んだものである。いわゆる「くずし字」における漢字の典型的な一つの側面を伝えている。どれもかなり普通に使われる漢字だが、いくつぐらい読めるのだろうか。

まず答えを示そう。上の行は左から右へ「守、国、興、爰、用」、下の行は「気、土、兼、是、互」である。江戸の版本などにおいては、ほとんどどれもスタンダードなもので、同時期の読み物をたくさん読んでいる目には、さほど苦にすることはなく、自然と覚えたものだ。いうまでもなく、今日わたしたちが使っている文字、知っている文字からすれば、その構成から書き順までとにかく違う。これらの文字がこのような形にたどり着いたのは、それまで長い間書き受け継がれたからにほかならない。中国の楷書などの字形をもともとの基準だとすれば、そこからすこしずつ手書きにおいて簡略化され、書きやすく読みやすくしているうちに、ここに到達した。そしてそのあとの二百年に及ぶ時の流れにおいて、これらの字形が使われなくなり、違うものに変形したのだ。

いまやくずし字をAIの技術で読むということが大いに話題になり、関心を集めている。このレベルのものなら、AIにはおそらくまったく苦労しないだろう。十分な用例さえあれば、すなおに覚えてくれて、識別してくれる。言い換えれば、いまの汎用の字形に邪魔されないで、一つの新しい文字としてこれに取り掛かるのだ。これからくずし字の読解に取り掛かろうとするには、この姿勢こそ大いに参考になると言えよう。

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