2022年2月12日土曜日

縦書き右へ二例

右へ展開する縦書きのレイアウトについて二週間まえに記した。それをうけて、さっそく友人から一例の存在を教えてもらった。同じく十返舎一九作品の『三峯山御狼助劔』、デジタル公開があって簡単に確認できる。文章によって犬の形を象り、犬の口の下の部分がそれである。右への縦書き、単純でいてインパクトがあり、妙に思いに残る。そこで漫然と読んでいるうちにさらに一例を見つけた。

『千代靏百人一首』(デジタル公開)。百人一首の歌を歌仙絵とともに並べ、上段には「百人一首の読み癖」、「三夕の図」から、「盃の次第」、「尼の名尽くし」に至るまで、さまざまな知識を羅列する手習いの一冊である。それの一つとして、三十六歌仙の歌と歌仙絵があった。それらを読んでみると、一番目は柿本人丸、歌は「ほのゝゝと、あかしのうらの、朝霧に、しまかくれゆく、舟おしぞ思ふ」。ただ、左から右への展開である。さらに読み進めてみると、在原業平の「世の中に」、素性法師の「みわたせば」、猿丸大夫の「遠近の」など、数えてみるとじつに十五人の歌仙絵はこのレイアウトを取っている。これら十五人すべては歌仙の名前を歌の左に置いていて、文字の読み順に関しては明瞭な指針を示している。半分は文字、半分は人物の座像という歌仙絵という独立の空間において、このような文章の綴り方はまた一つ意味深いヒントを残してくれた。

滑稽本などの遊び的な要素の強いもの、絵があって、ひいては絵を構成する文字、それらに対して古風で格調ある歌仙絵。考えてみればずいぶんと性格の異なるものだった。ただ、和歌となれば、散らし書きを思い出される。あるいはそのような、いわば由緒正しい伝統がここで隠された大事な役割をは果たしたのだろうか。

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