黄表紙の作品を何気なく眺めていたら、絵の構想の楽しいことにたえず唸らされる。ここにそのような一枚。『奇妙頂礼胎錫杖(きみょうちょうらいこだねのしゃくじょう)』、作者はあの十返舎一九、刊行は寛政七年(1795)。一九が黄表紙の作成に取り掛かる最初の年であり、この一年のうちに三作を世に送り、これがその中の一つである。
絵のタイトルは、「三千世界槩之図(さんぜんせかいおほむねのづ)」。見ていてすぐ気づくことだが、一枚の図は複数のパーツに分かれ、それらを切り抜き、立体的に「三千世界」を組み立てるものである。それぞれのパーツには、糊をつける空白が慎重に用意され、そして文字の説明が添えられる。それには、「てんぢくの人」、「からの人」、「からの女」、「日本の人」、「日本のやね」などと、分かりやすい。組み立てられたものには、驚くような世界観も、目新しいビジュアルな表現も特別に込められたわけではないが、それでも二次元の表現から三次元の空間を想像させる工夫は、魅力的だと言わなければならない。木版印刷によって仕上げた薄い紙の書物から、そのまま見るに耐えうる作品が作れるとはとても思えなくて、無理が多い。ただ、それでも読者にはまったく違うような刺激を与えている。このようなアプローチがいまや学習雑誌や児童読み物の付録などで頻繁に見かけられることとあわせて考えれば、二百年前の出版人の工夫に感嘆せざるをえない。
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