2019年1月5日土曜日

「住入」のこと

お正月には百人一首。かるたで遊ぶなどの経験は、実際に持ち合わせていないが、それでも思い出して、なにかと絵入りのカードやら絵双六やらを眺めることは、この時ならではの楽しみである。オンラインでアクセスしたのは、ブリティッシュコロンビア大学図書館が制作したデジタルコレクション「百人一首」、百点に近い作品がりっぱに公開されている。

たとえばこれ、「錦絵注入百人一首」に収められた一枚である。阿倍仲麿の歌だが、「古今羇旅」に分類され、「もろこしにて月を見こと」とタイトルが添えられる。絵に描かれたのは、三人の貴紳が筵に対座して酒宴に耽り、机の上には、酒の肴が並ぶ。月を「ふりさけ見」る中麿は、盃を手に握り、過剰に視線を月に向けてはおらず、帽子や服装によって強調される異朝の人が手を伸ばして遠くを指す。それらと関係なく満月は三人の頭上に上る。歌に対して「霊亀の朝、留学生とて唐に在こと五十年、扨日本へ帰らん時、」云々と、二百程度の文字におよぶ注釈が加えられている。それにしても、タイトルの上に出ている「住入」はどうしても解せない。文字として、「注」と「住」とは、文字を書く人、これを読む人にとって、そこまで無頓着で入れ替え可能なものだろうか。

同じタイトルは、かなりの数に及んで制作され、愛読されていたらしい。版や出版形態の違うものは、早稲田大学国文学研究資料館のデジタルコレクションにも収録されている。絵柄もほぼ同じに留まらず、「住入」まで変わらないことを付記しておきたい。

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