2020年8月1日土曜日

忘れ草

庭に植えてあるごく数少ない花の一つは、今日満開した。とても綺麗で、写真に撮ってインスタにアップした。もともと花には無頓着、これを機に名前を調べてみた。英語名はHemerocallis fulva、日本語になるとワスレグサ、なんと忘れ草である。

意識の中で、花の名前と実体がはじめて繋がった。いうまでもなく、この名前の花ならその伝統は長い。遠く万葉の時代から詠まれたのだった。そして「伊勢物語」(百段)は、この花を主役に据える。あの「忘れ草、生ふる野辺とは、見るらめど、こは忍ぶなり、後もたのまむ」との歌である。江戸時代の挿絵にはもちろん登場した。一例として右の場面を見てほしい。葉っぱのついた忘れ草は、あまりにも巨大で圧倒される。ただ一見して分かるように、肝心の花よりも、葉っぱが花びらの形を模っている。絵の描写力はさておくとして、特定の花を認識し、明確に伝えるという意味でその完成度には疑いようがない。(国文学研究資料館蔵『校訂伊㔟物語図会』より。文政八年刊、三ノ卅八オ

ちなみに忘れ草の原生は中国、その名は萱草。唐の詩人に詠まれたりして、同じく悠遠な伝統を辿ることができる。ただ中国でのそれは「母親花」との別名を持ち、親思いの感情を託し、とりわけ旅に出る子が親の居所に植えるものとして享受されていた。

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