2022年4月23日土曜日

断簡

今週披いた絵巻は、『狭衣物語絵巻』。手元で読むのは、「日本の絵巻」18に収録されるものである。一方では、東京国立博物館所蔵のこの一点は、「e国宝」でデジタル公開され、画面を眺めるには、印刷されたカラー写真より遥かに高画質で細部まで鑑賞、閲覧ができる。

この作品は、五枚の断簡しか伝わっていない。五枚とも画像が中心で、その中で、建物がテーマで、物語性がきわめて薄い一枚にのみ、数えて十行の文字が添えられている。ただ、「日本の絵巻」の解説によれば、画像の裏にその経緯が記された。江戸後期の住吉派の画家板橋貫雄が、伝二条為氏筆の「源氏物語・澪標」断簡の一葉を選び、ここに貼り付けたのだった。絵には文字、そのような絵巻の体裁に基づき、大昔から伝来した美術の宝物に、鑑賞のための手がかりを提供しようとしたものなのだ。一つの画像の断簡に対して、文字の断簡が新しい命を吹き込み、江戸の文人ならではの、絵巻享受の一端が覗かれた。

思えば、このタイトルは、これまで何回となく読み返した。特設ページ「古典画像にみる生活百景」において、貴族たちのユニークな行動を取り上げ(「目撃」)、「第38回国際日本文学研究集会」での発表(「絵巻にみる男と女の間」)は、直接に引用する余裕がなかったが、男女の構図を議論した。記録を確かめると、後者の場合はすでに十年も近くまえのことだと気づき、自分ながら驚いた。

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