三週間先にあるネット授業が予定されている。それへの準備に取り掛かり、黄表紙『敵討義女英』を取り出した。これの朗読動画を制作したあと、物語のハイライトである小春の死についてかつてここで書いてみた(「袈裟御前から小春へ」)。これを講義の内容の一部とし、関連の資料を確かめ、スライドに纏めた。
このような限定的な用途においては、オンラインでのリソースがすでにほとんどの期待に応えてくれている。いまの課題である黄表紙作品の出典としての『源平盛衰記』の記述をめぐり、まさに一つの実例を示してくれた。盛衰記のデジタル底本を求めてみれば、バージニア大学図書館が公開している「Japanese Text Initiative」がさっそくヒットし、利用しようとする巻第十九「文覚発心附東帰節女事」から関連の段落を簡単に取得できた。講義の資料としてビジュアルの要素が大事なので、『源平盛衰記図絵』を思い出し、盛遠の行動とその悲劇はドラマチックで絵になるだろうと目論んで調べたら、はたしてその通りだった。画像も国文学研究資料館が提供している。写真はその画像の一部だ。さらに、この話を敷衍して一篇の短編に仕立てた芥川龍之介の創作を思い出し、それも「青空文庫」からアクセスできた。一方では、版本の画像なら安心して使えるが、電子テキストになれば、一度入力のプロセスを通過したので、やはり用心が必要だ。はたして盛衰記の電子テキストにおけるこの段落には、「吊には御渡候まじきやらん」という妙な一行があり、手元の底本と読み比べてみれば、「弔」の誤りだった。OCRによる入力作業の痕跡が残されてしまったという結果だろう。デジタルテキストなら入力の精度、版本などの電子画像なら対象となる伝本など、古典のデジタル化は一度で終わるようなことではけっしてない。複数の公開、そしてさまざまな利用への対応など、これからはもっともっと多彩多様なリソースが現れてくることだろう。利用者としては、ただ待ち遠しい。
0 件のコメント:
コメントを投稿