2019年12月31日火曜日

庚子歳賀正

謹賀新年。

子の年を迎えた。今年は近年あまり見ない暖冬で、クリスマスも年越しも昼は気温がプラスになったぐらいだ。毎年のように「紅白歌合戦」を眺め、ゆっくりと流れる時間に楽しんでいる。

新しい干支を古い絵に求めたくなる。前回の子の年は、たしか「絵師草子」に登場した鼠をあれこれとトレースしたのを覚えている。「十二類絵巻」にも擬人した鼠がかなり登場したものだ。一方では、擬人した鼠、それも干支に関連して年末年始を飾るものは、浮世絵では大きなテーマとなっている。あれこれとデジタル公開したものをクリックしてアクセスし、画題や説明などを読みながら遠い昔の年越しに思いを馳せた。そしていつくか選んで、右のような寄せ集めの一枚を仕上げ、庚子歳賀正の絵にした。

デジタル浮世絵のリソースはかなり公開されている。中でも立命館大学アートリサーチセンターが運営している「ARC浮世絵ポータルデータベース」は、規模が大きくて、研究利用への考慮が行き届いて使いやすい。今度利用した画像は、すべて同じデーターベースから取得した。参考にリンクを添えておく。

猫鼠合戦・菓子袋」/ 「道外十二支・子」/「家内安全十二支之図」/ 「道外十二支・甲子の鼡」/「猫鼠合戦・鮑の飯

2019年12月28日土曜日

四コマGIF

数週間まえ、「元祖四コマ」を書いた。同じ注釈書からは、さらに似たのを三例ほど見つけ出し、あわせてGIF動画にして公開した。一方では、たとえ四つのコマにわける作りになっていない注釈絵に対しても、「四コマ」とは一つの読み方として大いに応用できるものだと気づいた。いわゆる「起承転結」の記述法だ。一枚の絵でもこの読み方に十分応えられる場合もある。

このような読み方を伝えるためには、GIF動画は有効な方法だ。動画作りの手順はほぼつぎの通りである。まずは注釈絵のサイズを揃え、必要な部分を切り取り、あるいはハイライトを与える箇所を確認する。ストーリーの伝え方をすべて四つにまとめ、原文記述のとおりに並べる。絵が対応する原文を抜き出し、それにあわせて現代語を添える。ただいわゆる原文の訳ではなく、読みやすい、要点や語感を強調したい、じゃっかん言葉遊びも試みたいなどと、やや強めの言葉に置き換えたりした。完成したものはGIF動画だから、終わりなくループし、いつまでも眺められる。いうまでもなく、味わってもらいたいのは、あくまでも兼好ワールド、その独特な語り口や心地よい文章のリズムこそ最大の魅力だ。その上、江戸の絵注釈が経験した苦労や到達した境地を思い出してもらい、知ってもらいたい。

ちなみにGIF制作そのものは、手軽に仕上げることを求め、過剰な視覚効果を狙わない方針を取った。文字情報や絵へのハイライトなどを制作する道具はPPT、複数の画像をGIFに結合するソフトはGiam、最小限の作業で統一感のある動画を仕上げることを心がけた。

2019年12月21日土曜日

デジタル大掃除

世の中は、年末年始に突入している。年末と言えば大掃除。パソコンの中に溜まっているさまざまなファイルの整理も間違いなく中の一つであり、たとえ大掛かりな作業ではなくて、小さくて細かなものでも確実に時間を喰い、細心の対応をしないとあとはややこしい。その中の一つをメモしておこう。

大学のサーバーに個人のサイトを開設している。最初の公開日にちを書き止めていないことは残念としか言いようがないが、確実に20年以上は続いてきた。一番単純なHTML書式で仕上げたそれは、いまでもほぼ最初の形で稼働している。この事自体、はたして自慢すべきだろうか、それとも恥ずかしと思うべきだろうか。いずれにしてもサーバー管理側の立場からすれば、きっとやりきれない、多大な無理を押して対応しているほかはなかろう。

そのようなサイトの手入れも、したがってできるだけサーバの関係者に邪魔をしないで自力で対応するように心に決めた。今度とりわけ苦労したのは、更新したいファイルを取得し、それの編集結果をあらためてサーバーにあげるための、自宅のパソコンと大学のサーバーとの交信手段の確定だった。なにせ二年ちかく触っていないから、交信手段の更新状態はまったく分からず、あれこれと調べなければならない。結果としては、「forticlient」を取得し、それを稼働させたうえで「SSH」を使ってファイルのやり取りをするというものである。プロセスとしては、大学での利用者アカウントとパスワードを数回入力し、あとは大学サーバー専用のアドレスにアクセスするのみだった。関連の情報は、VPNの設定をふくめて、だれでも分かるように纏められてはいるが、その情報自体はいろいろなところに散らばっていて、それぞれのルートでたどり着くことは、かなりの回り道をさせられた。

振り返ったら、前回これと似たような作業をしたのはたしか一昨年の春であった(「文字化け」)。あまりにも怠慢だと言わざるをえない。だが、このような感じでので維持は、しばらくは続きそうだ。

2019年12月14日土曜日

仏像

いつも感心や感動をもって眺めるものだが、仏像の世界にはあまりにも疎い。あの漱石の夢はインパクトが強いから(「梓慶為鐻」)、てっきりほとんどの仏像が一本彫りで、大きな幹から彫られたものとばかり勘違いしていたぐらいだ。NHK再放送の番組「運慶と快慶・乱世がうんだ美の革命」を見て、じつに多くのことを習った。

一時間の番組は、たくさんの興味深い事実を教えてくれた。運慶と快慶の合作とされるあの東大寺の阿吽金剛力士像は、なんと6102個のパーツから成り立ち、しかも二週間程度の時間で組み立てられたとか。いったん完成された仏像でも、さらに繰り返し修正が加えられ、まるで消しゴムを駆使するかのように、特定のアイテムを消したり、場所をずらしたりしていた。そのような数々の仏像を現代の研究者の手にかかれば、飽くなき探索の対象となってしまう。最先端の方法での撮影や透視、色測定などはいうまでもなく、微小だが仏像の一部を切り取って顕微鏡で観察して利用した樹木の特定など、大胆な方法も取られている。さらに現代の仏師の手による金箔による模様の再現とその役割の解説は、大いに蒙を啓してくれた。

運慶と同時代の「玄奘三蔵絵」は、仏像を作成する場面を描いている(写真、巻十二第一段より)。よく見れば、たしかに複数のパーツに分かれての制作なのだ。しっかりと記憶しておきたい。

2019年12月7日土曜日

OSEPPA

週末になって、30年近く前からの学生から、ちょっと意外なメールが入った。南北朝時代の日本刀の「OSEPPA」が手に入り、それには文字が書いてあるから読み取ってほしい、とのことだった。知っている語彙の中にわずかに鍔(鐔)はあるが、切羽、大切羽となると、辞書を見て初めて漢字を確認できたぐらいだ。まったくの門外漢と言わざるをえない。でも興味が確かにあるから、見せてもらうことにした。

かなり精細な写真が早速送られてきた。文字を読み取るという作業には、まちがいなく実物以上に読みやすい。なにはともあれ、文字の形を頼りに推測半分に、無理やり読んでみた。「けんのあるかねこゑ」とでも読めるかもしれない。言うまでもなく根拠も、自信もない。気が遠くなるような蓄積のある分野、おまけにゲームやアイドルたちを伴う今時の刀剣ブーム、さまざまな立場から豊富な知識が語られている。関連の辞書や解説書などにひとまず目を通しなくちゃならないのだが、 そういう最小限のことさえとても叶えられない。とても自慢にはなれない話だ。

それにしても、写真は文字の二つを示している。じつに力強いものだ。筆を持っていてもとてもここまで簡単に書けるものではない。文字の生成流転を考える上でもとても心に残る作品だ。これに出会っただけでも記憶にしておきたい。