2017年8月26日土曜日

IIIFのいま

デジタル画像資料の公開や利用に関心をもつ人なら、IIIF(トリプルアイ・エフと読む)の発展ぶりに目を見張る思いを抱くことだろう。大規模な図書館や美術館のコレクションはつぎからつぎへとこれにあわせた公開を表明したり実施したりし、そしてさまざまなツールが開発され、新たな利用方法が案出されるようになっている。

IIIFの本質は、デジタル画像データの閲覧や共有のための技術的な約束(スタンダード、プロトコル)であり、画像と文字という二つのメディアの自由な行き来、画像データの共同利用を目指すものである。はたしてこれが最善の答えかどうかと確信をもつまでにはいまだ時間がかかるだろうが、ともかく一つの非常にありがたい枠組みができたのである。

一方では、個人的に関心をもつ日本の古典資料にかぎって言えば、いまだ飛躍的な可能性が提示されてはいるが、満足に研究に利用できるまでにはいまだかなりの道のりがあると言わざるをえない。具体的な機関名を憚らずにあげて考えてみれば、e国宝、早稲田大学図書館、国会図書館などデジタル公開の先発機関は、簡単にこの基準に切り替えられないことは理解できることだろう。対して、慶応義塾大学メディアセンターのデジタル公開は、IIIF基準を用いていながらも、他機関からの利用のためのmanifestを提供していない。現時点では、大規模公開の名にふさわしいのは、国文学研究資料館の「日本古典籍データセット」(「新日本古典籍総合データベース」からアクセス可能)のみである。

画像資料の共同利用が目標なはずのIIIF基準であるが、これを取り入れることは即利用可能を意味しない。言い換えれば、ここでは、利用というコンセプトの理解には、閲覧、引用、部分取り出しなどさまざまな開きがあるようだ。共同利用を目標に複数の機関が協力するアメリカやカナダの大学などに見られる姿勢と、あくまでも慎重で使えるところから試みるという日本的な取り組みには、それぞれのスタンスの違いが明瞭に見受けられる。いずれにしても、一研究者としては、有意義な実践をもって、IIIF基準の普及に力を添えたいと思う。

2017年8月19日土曜日

CAJLE2017

この週の半分程度の時間は、CAJLE(カナダ日本語教育振興会)年次大会への参加に当てた。今度はホスト大学の役が廻ってきて、小さな所帯の日本語プログラムの教員や学生代表は、ほとんど総出での関わり様であり、わたしもサポートに走り回った。一方では、日本語教育の学会からはなぜか遠のいてしまい、久
しぶりにいろいろな発表を聞いて、大いに勉強になった。

研究発表のテーマは、じつに広い範囲を及び、問題提起の着想も、そしてアプローチの多様性も、教示に富むものが多かった。大会プログラムを閉じたまま、記憶に残ったものをランダムに書き出してみても、つぎのようなものがあった。外国語としての日本語教育における言語の規範主義への認識、そしてこれにかかわる母語話者の立ち位置、それの権威と盲点、日本語学習者の三タイプ(言語オタク、社交、アニメ)、日本語学習者の動機分類、語学とスポーツとの関係、アニメキャラなどの話し方とそれが日本語学習者に与える刺激、日本語における略語の成り立ち、などなど。なお、この学会の伝統として、いつも複数のワークショップを併設して、教育者としての会員たちの自覚向上や情報交換に努めている。今年のそれには、ペアになって互いに謝ったり、愛を言ったりするような芝居をさせて言葉への再認識を呼び起こし、あるいはインパクトのある言葉や身体言語の誤用例を説明するなど、さながら教室風景を再現したものだった。

テーマは語学教育ということから、教室活動を具体的に紹介し、あるいはそのような活動をうけての学生たちの反応を集め、しかもさっそく数値化して報告するような発表は多かった。言葉を習う学生と実際に接し、その学生たちの成長は目に見えて分かるものだから、このような実践的な議論が自然と関心を集めるようになったのだろう。研究分野が違うと、研究のアプローチがこうも違ってくることを、あらためて確認した気がした。

CAJLE 2017

2017年8月12日土曜日

OMATSURI

地元では、日本をテーマとした祭りを行い、今年はすでに七回目と数えた。年ごとに参加者が増え、すっかり定着してきた。今年のそれは、土曜日の今日。良い天気にもめぐまれ、週末の他の予定などを調整しながら、午後遅くなって駆けつけた。

予想はしていたが、知人、友人に加えて、やはり学生が多かった。すでに卒業して何年も経った人々、いまもクラスに通っている人々など、しかも出店でボランティアをしたりして、ホスト側に身を置いている。会場に入ったらさっそくこれから一年の留学が予定されている一人の学生に呼び止められ、秋からの日程などについての詳細をあれこれと教えてくれた。話の内容よりも、情熱と期待にはかなりのものがあった。内容豊かな売店に加え、特設ステージでのイベントや出し物、碁や生花の実演や即席クラス、地元での大掛かりな行事の録画放映など、内容は盛りだくさんだった。いつもながらさっそくカメラを構えてみたが、遠く眺めるダウンタウンのビル群をバックにした鳥居や鯉のぼりなど、やはり情調があった。

会場を離れようと再び鳥居の前で足を止めたら、シャッタを頼まれ、軽く会話を交わした。なんと二年前に担当のクラスを通った学生だったとのことが分かった。しかも、夏には京都旅行をし、クラスで教わった知識が大いに利用できたと、こちらも熱心に教えてくれた。教師としてはやはり最高に報われる時間である。

Calgary Japanese Festival “Omatsuri”

2017年8月5日土曜日

DH2017

「DH(デジタル人文学)」と名乗るかなり大きな学会でのポスター発表は、8日と予定されている。第一作者の永崎さんの好意により、わたしも名前を加えさせていただいているが、実際に関わったのはごく小さな一部分にすぎない。そのため、会場に駆けつけることはなく、遠くから応援することにしている。

具体的な作業は、一年前に行った。デジタル画像データを共有する強力なスタンダードとしてIIIF(International Image Interoperability Framework、国際画像共同利用ネットワーク)が脚光を浴び、高精細画像の閲覧や画像内部についての追加情報のプロトコルがようやく統一が見られるようになった。そこで、文字情報の追加、表示の可能性を探るべく、奈良絵本の変体仮名表記に電子テキストを添え、かつそれぞれ一行ずつの対応関係に関する位置情報を書き出した。「アノテーション」という名の機能をフルに活かしたものである。これに、永崎さんは縦書き表記とマウス移動に合わせてのテキスト表示の機能をビュアーに付け加えた。マウスの移動に合わせて変体仮名に対応するテキストを表示する機能は、だいぶ前、CD-ROMの形で出版した「kanaCLASSIC」(1999年)にすでに試みたものだが、あのころに対して、いまはオンラインの環境でスムーズに実現できて、大きな進歩と言わなければならない。

一方では、画像への電子テキスト情報の追加は、あくまでも手動で実現したのである。これに対して、自動読み取りというまったく異なるアプローチも試みられている(「くずし字OCR」)。マニュアル作業の限界、そして自動化の未来がどのような形で訪れてくるものなのか、大きな関心をもって、慎重に見守りたい。

Digital Humanities 2017 (ポスター要旨