2019年10月26日土曜日

コントラスト

右の二つの画像を見較べてください。デジタル画像は、あれこれと色などの調整をしたら、読む目に訴える感覚はここまで変わるんだ。もともとたとえば文字の自動読み取りなどにかけるためなら、あるいはどうでも良いかもしれない。ただ普通の読み手には、まさに劇的な違いだ。このような手入れでも、デジタル編集と呼びたいが、いささか大げさだろうか。

手入れの方法を簡単にメモしておく。普通よく知られているのは、たいていの画像処理ソフトが提供している「レベル補正」という画像の色調を補正する機能だと思う。いまの実例では、それだけではちょっと限界があって、どうしても思う通りの結果が得られない。そこであれこれと調べたり、試したりした。最終的に辿りついたのは、フォトショップ(Photoshop CC, 2019)が提供している「Camera Rawフィルター」という機能だ。「基本補正(Basic)」における「コントラスト(Contrast)」を最大値にして、さらにレベル補正を加えたら、上のような修正ができた。ちなみに、あのフォトショップは、メニューに出ている機能名だけでも、英語と日本語との対応はややこしい。このリストは広く知られているが、いまの機能が利用できるバージョンはいまだこれには反映されていない。

上記の実例は、国会図書館デジタル公開の「敵討義女英」からだ。あれだけの規模の公開だから、画像の画質調整などを理由にする内容更新はまず考えられない。正直、一利用者としても、画質などに妙にこだわるよりは、使わせてもらえることで十分にありがたい。

2019年10月19日土曜日

オープンアクセス

数えてすでに九年まえのことになるが、雑誌『中国21』に小さなエッセイを書いた。ここ数日、ちょっとした必要があって調べてみたら、出版がわがすでにオンライン公開をしている。作者としては、ただただ嬉しい。同じ文章は、このブログにおいても個人的な記録として「雑誌投稿」の一篇に加えたので、さっそく同じリンクを添えた。(「留学の東と西」)

同じ雑誌のオープンアクセスにちょっと意外に思った理由とは、それがいわゆる商業ベースで発行しているからだ。出版元は東方書店、定価は2000~2200円、しかも同出版社はいまでもバックナンバーの販売をしている。一方では、この雑誌は多くの大学や研究機関の図書館において学術誌として収録されている。これまでのラインアップを眺めてみてすぐ分かるように、かなりの専門家の名前が執筆陣に認められ、一冊ごとに選んだテーマも、どれも挑戦的で、読み応えがある。そこで、オープンアクセスである。よく見てみれば、年二回刊行の『中国21』は、一年遅れに公開するというものである。雑誌の発行形態と考えあわせれば、ぎりぎりの判断だろう。特筆すべきのは、同雑誌のトップページにおいて、2015年9月付けで許諾関連の説明と不許諾用紙という二つの書類を用意されている。その趣旨は、「許可しない書類を送付しなければ許諾だとする」、「後日になっても許可しなければ直ちに掲載を取り下げる」というものである。とりわけ学術誌に関連する著作権の立場からの対応では、いまやこれが基本方針になっている。

ちなみに、CiNiiでこれを確認してみた。『中国21』公開分のほとんどの論文には「機関リポジトリ」とのリンクが付けられている。しかしながら、上記の短いエッセイは、掲載されてはいるが、おなじリンクが見られない。理由は分からないが、CiNiiの利用においてちょっと記憶しておきたい。

2019年10月12日土曜日

渦・UZU

日本からのお土産に雑誌をもらった。例の直木賞受賞の小説『渦』が掲載される号だ。ずいぶん前から話題になっていたのに、いまだに書店に並べられるいることにむしろちょっと意外だった。どうやら受賞作品の半分程度しか収録していないが、暇を見つけて読みはじめた。今頃の小説の気苦しいところはなく、素直に楽しめた。おもえば大阪の友人、知人にたくさん恵まれたこともけっして関係ないことではなかったと言い切れる。

近松半二の名、文学史の勉強でおぼろげに覚えた程度で、ここまでいきいきと描かれて、惹きつけられた。そこでなにげなくウェブをクリックしたら、「近松半二の死」(岡本綺堂)というフィクションもあり、青空文庫に収録されている。こちらのほうは舞台劇で、上演の記録なしとのこと。山科で一図の浄瑠璃作者らしく最期を遂げたところだが、対話は標準語、それも昭和ごく初期のもので、八十年の年月が流れた言葉の変遷を思い合せて読み進めると、これは上方方言とはまた一味違う味わいがある。近松門左衛門との関連は同じく語られ、ただ受け継いだのは、机になっている。操りから歌舞伎への変換期の騒動を後ろに感じ取り、やはりわくわくさせるところがある。

「外題」という言葉が岡本作で取り上げられた。江戸なら「名題」だと辞書が解説する。作者と大夫との内輪の会話では、演目のことをあくまでも内容を表わすキーワードを用い、プロモーションの一環として、はじめて演目に外題が付けられるとのことだ。それはさておくとして、浄瑠璃や歌舞伎の演目のあの特殊な読み方にはいつも不思議なものを感じ、振り仮名をみてなるほどと膝を打つことが多い。そういえば、『渦』へのローマ字での読み、これもわざとこの言葉の伝統に一石を投じようとしたのだろうか。

2019年10月5日土曜日

開かない巻物

ここ数日、古い巻物へのアプローチが話題になり、イギリス、アメリカなどのメディアが一斉に報道した。友人に教わり、関連の記事を読んでみた。スポットライトが当てられたのは、あのポンペイ遺跡から発掘されたパピルス(古代エジプト・ギリシャ・ローマの紙)の文献、そしてそこに書かれた文字を復元・再現するというものである。

これら二千年も前からの巻物は、二百五十年ほど前に発見され、その数は実に千八百点にも及ぶ。ただ、火山灰から掘り出されたもので、いうまでもなくすでに開かない。これまでは、どうやらそれを物理的に開こうとする努力がかなりなされたが、いずれも失敗に終わり、実物が破壊されてしまう破目になった。今度のポイントは二つ、CTスキャンの応用と、コンピューターの自動学習の導入である。医学のCTスキャンの手法を生かして、開かない巻物にダイヤモンド光源を当てる。それから、パピルスに施されたインクの物理的な徴候をコンピューターに覚えさせ、自動的に識別、合成して巻物の内容を再現するものである。いまはこの方法に狙いを定めた段階で、完全なイメージの生成はこれからの作業である。そしてそれが成功すれば、違うグループの学者の手に移り、文字の中身についての解読を任せるとまで発表されている。

以上のようなアプローチの要点を、研究チームはきれいな動画に纏めた。だれにでも分かるような、見ていて楽しいものである。高度な技術の応用を丁寧に解説し、広く共有して社会から関心を呼び起こす、この姿勢も大いに参考になると感じた。

関連の新聞記事:その一その二動画つきの解説