2022年1月29日土曜日

次世代ライブラリー

今週、SNSで盛んに交された話題の一つは、国立国会図書館が「次世代デジタルライブラリー」を公開したことだ。これまでにデジタル化された著作権フリーの書籍を対象に、全文テキスト検索や画像検索の機能を一般のユーザーに提供するものである。専門分野の研究者から一般の読者までみんな興奮してこの知らせに接している。

さっそくあれこれと試してみた。NDL Labサイトから、いまは一番目に上げられている「次世代デジタルライブラリー」を選び、「Next Digital Library」に入る。提供されているのは、キーワードと画像という二つの検索方法なのだ。

言葉による検索は、今度の公開の最大の目玉だ。対象書籍をOCRにかけて電子テキストにし、それを検索対象とするということだ。ただなによりもその分量なのだ。自分にとってのキーワード、あるいは漫然と思いつい言葉をシステムに入れ、ほぼどれもかなりの分量のヒットが戻ってくる。中にはまったく意識しなかった分野の書物も多く、つい夢中になる。個人的にとりわけ感心したのは、ヒット項目をクリックして開く書籍閲覧の画面に、「Full text of this book」が用意されたことだ。これをクリックすると、書籍全体のテキストファイルがまるごとローカルのパソコンに保存される。ページごとに一つずつのファイルになって、じっさいに使用するにはもうすこし加工が必要だが、閲覧画面とあわせて使えば、たいへん貴重なリソースが手に入ったことになる。

一方では、テキスト検索のヒット画面に、「Illustrations in this book」と、同じ書籍に含む画像を提示し、さらにテキスト検索と同列に画像検索の機能が用意されている。だが、この検索は、現時点では稼働はするが、さほど使いものにならない。試しに公開資料である『前九年絵巻物』から馬の画像を一つ切り出して検索に掛けたら、ヒット作は、数こそかなりのものが戻ってきたが、その内容は、美人から古地図、植物などに及んだ。目を凝らして探してようやく同じタイトルが混じっていると確認できたが、検索にかけた場面ではなかった。

このライブラリーは、「国会図書館の実験的なサービス」の一つであり、しかもいまのところ、すべてのページが英語のみとなっていて、日本語に切り替えるボタンが見つからない。まだまだ試運転だということが分かる。一人の利用者としては、この方針がむしろ大歓迎だ。もっと多くの驚きや喜びがきっと待っていると信じてエールを送りたい。

2022年1月22日土曜日

縦書き右へ

『文字の知画』を読んでいて、まるで謎解きの経験をした。十丁オを読み進んだところ、文章は通じるようで通じない。かなり困ったところ、ぱっと答えが現われた。なんと縦書きの文章は、突然のように左から右へと一行また一行と展開されたのだった。

絵によって出来上がった二つの離れた空間を埋める文章である。上の部が左いっぱいまで来たら、下の部でどう続けるのだろうか。この一冊ではこのような状況が何回となくあって、ここまではずっと「▼」「▲」の記号をそれぞれの終わりと始めに置くことによってその繋がりを示してきた。分かりやすい。そんなところへ、ここの文章となって、なんと方向逆転の対応を仕掛けてきたのだ。大胆というか、無茶というか。思い切って肩をもってあげるとすれば、もともと絵も内容も、そしてそもそも文字そのものを対象に遊びや戯れをいっぱい施し与えた書物だから、ここへきて文章のレイアウトにまで手を加え、それを弄ってしまった、といったノリだろうか。

縦書き右へ。このようなレイアウトは、はたしてどのような書籍に姿を見せたのか。そこには著者や版元のどのような気持ちが隠され、読者との間でなんのキャッチボールが行われたのか、知りたいものだ。

2022年1月15日土曜日

画像保存

デジタル公開されている古典籍の画像は、閲覧に対応するように工夫されている。それでも、じっくり、繰り返し読むには、ローカルのパソコンに保存しておきたい。ダウンロード利用の方法はいまでもさまざまで、利用者としてたえず模索を続けなければならないのが現状だ。

一例として「新古典籍総合データベース」収録のタイトルがあげられる。IIIF基準に統一していることは心強い。だが、国文学研究資料館所蔵のものなら、閲覧の画面にダウンロードのボタンが用意してあるが、これがすべてにわたるには至っていない。きっと所蔵者の意図により決められたことだろうと思われるが、簡単に保存できないものもある。一つの解決方法として、閲覧の画像を右クリックし、出てくるメニューから「名前を付けて画像を保存…」を選ぶことだ。小さい枠で閲覧していると、枠の中に出ている画像(したがって時にはページの一部分)が対象で1168x651のサイズで保存される。一方では全画面で閲覧していると、モニター解像度のサイズの画像が得られる。手元のパソコンの解像度は3440x1440、保存の画像は3440x1397という結果となる。ちなみにこれは「プリントスクリーン」によって取得する画像とほぼ同じ結果だ。

ここ数日、時間をかけて読んでいるのは、『文字の知画』。国書目録に収録されていない底本が、所蔵者作成のデジタル画像で新古典籍総合データベースにおいて公開されている。なにはともあれ所蔵者に感謝したい。

2022年1月8日土曜日

将軍時宗

黄表紙の作品を読んでいくと、当世の浮世ものがさかんに描かれるなか、数は多くないが、歴史上の出来事に装っての物語があった。その中には、時々あっとさせられるものが混じり込む。つぎのは、その一例である。

蓬萊山人亀遊の作なる『敵討女鉢木(かたきうちおんなはちのき)』(安永六年刊)。親の敵を討つけな気な二人姉妹の地味な物語だが、その出だしの一行は読む人を怪訝に思わせる。「かまくら六代将軍北条時宗公のおんときに…」(写真は東京都立中央図書館加賀文庫蔵より)。時宗を含め、北条家の面々が幕府の実権を握っていたとは言え、いつ将軍にまでなったのかよと、ツッコミを入れたくなる。あの蒙古襲来に当たって懸命に奮戦した北条時宗、同時期の「宮将軍」宗尊親王はたしかに六代だと数える。妙に現実感があって明らかに大らかな書きぶりは、あるいはまさに黄表紙の不思議な魅力の一つだったかもしれない。ちなみに、この作より遥か影響力があって広く読まれた『敵討義女英』(寛政七年刊)も、似たように「かまくら三代将軍源の実朝公のころかとよ」と語り始める。いうまでもなく、二作とも物語の内容はこのような時間の設定とはまったく関係なく展開された。そもそも「かまくら」と語り出すことの意識そのものが今日になったら図りがたいものとなったと言わざるを得ない。

思いがこのようなところに行き来することは、いうまでもなく大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に惹かれたものだ。いまや「北条」、「義時」、そしてけっして聞きなれない「鎌倉殿」の言葉がテレビ画面に溢れる。はたしてどのようなドラマになるのやら、あと数時間で初回放送となり、楽しみだ。

2022年1月1日土曜日

謹賀新年2022!

明けましておめでとうございます。

年賀状の文字は『先哲像傳』より、絵は「毛益/孤虎図」より取り出し、組み合わせた。画像処理の詳細は、note(「画像処理メモ・文字」、「虎が踊り出る」)に記した。