2016年6月25日土曜日

動画・変体仮名百語

変体仮名をテーマとする教育ソフトは、どうやらちょっとしたブームになっていて、最近いくつも開発され、公開されている。その中に、あえて一つのセットを加えた。名づけて「動画・変体仮名百語」。課題とするのは、いわゆる「連綿」である。高精細のデジタル画像で公開されている平安、鎌倉時代の絵巻などの作品から百のフレーズを選び、その筆順をそれぞれ示すことを中心の内容とした。

思えばすでに二十年近くも前になるが、「kanaCLASSIC」というタイトルのCD-ROMを作成したことがある。あのころ、日本語テキストさえ英語バージョンのパソコンでは対応されておらず、日本語を画面に写しだすだけで大変な苦労があった。そこで、変体仮名の学習というテーマについていえば、あの作品で意図的に実現したのは、仮名の筆順を動きをもって表現することだった。しかしながら、自分として少なからずに自負していたこのアプローチは、その後は意外とまともに受け止められていない。筆順を知ることは、変体仮名を習得するうえでいうまでもなく大事なことであり、しかもそれを伝えるには、紙に印刷された媒体では自ずと限界があって、デジタル技術の得意とする分野なのだ。このような考えから、いまごろの方法などを活かし、GIFファイルの方法で動画ファイルを作成し、特設のウェブサイトに纏めた。

このサイトにおいて、ささやかなおまけとして小テストを用意した。プラットフォームに頼らず、スマホも含めて、インターネットのブラウザから日本語を入力して、テストに答えてみることが可能になっている。変体仮名についての知識をすでにお持ちの方は、この小テストから試してみてください。

動画・変体仮名百語

2016年6月18日土曜日

「志流」を知る

右の二文字は、「清水寺縁起絵巻」(巻上第一段)の詞書から切り取ったものである。これだけ見せられても、すぐにはなにを意味するのか見当もつかないだろうが、上下の文章にあわせて読めばいたって分かりやすい。いわゆる変体かなで、それぞれ志と流を字母とした「しる」という二文字であり、「知る」である。

ここまで読んだら、文字画像に動きが加えられていることにお気づきだろう。二つの文字を知る、知ってもらうために、すこしだけ工夫した。今日の仮名は、その大半において、平安や中世の文献においてすでにかなり形の近いものが認められる。一方では、今日と同じ形の仮名は、同じ音を記録する複数の字形の一つに過ぎず、広く使われていながらも、結局今日まで受け継がれていない字形のほうは圧倒的に多かった。志流という二文字も、そのような忘れられたものである。そのため、文字がどのどのような形をし、ように書かれ、なにがそれの核とした内容だったかということは、古典勉強においての入門の知識である。それを説明し、同時に文字の美しさを伝えるためには、デジタル表現による動きが一つの有力な手段に違いない。

動画は、いわゆるGIFである。いまやかなり頻繁に見かけられ、作成や編集にも、スマホのカメラアプリ、ウェブベースの作成ツール、ビデオからの変換など、さまざまなアプローチが用意されている。その中の一つを見つけて、パソコンに入っている標準装備の描画ソフトに合わせてGIF制作を試みた。筆の動きや流れまで表現しようと心がけたが、はたしてその出来栄えは如何だろうか。

志流(原典

2016年6月11日土曜日

男か女か

ここ数日、小さなプロジェクトに取り掛かり、「国文研古典籍データセット(第0.1版)」に収録されている「唐糸草紙」を読み返している。いわゆる御伽草子の一篇であり、これまで多くの本文研究などが施されている。当面の課題は、この国文研本の翻刻と読み下しであるため、本文の内容を注意深く読んでいるうちに、予期せぬ小さな発見もあった。

木版や書写本の形態にわたる多数の伝本が存在しても、本文レベルの異本間の違いは、漢字の当て字や仮名遣い(は・わ、い・ひ、を・お、など)に止まるというのは、この作品群の特徴である。しかしながら、それでも時にははっと思わされるような本文の齟齬が現われてきて、目を凝らして読み返し、理由をあれこれと推測せざるをえない。たとえば、「男」と「女」とが入れ替わっているのだ。国文研本に見る「万寿は男とも思はず十二三の者が」(下21オ)という一文は、通行の御伽草子では「女とも思はず」となっている(写真左、国会図書館蔵「からいとさうし」)。一方では、おなじところは男とする伝本もたしかにあり、写真右は霞亭文庫蔵「からいとさうし」の該当するところである。この文章の意味は、現代風に言い換えれば「大人にもなっていない小さな子ども」といったところだろうが、それでも「男」と「女」とを自由に取り替えられるという言語感覚は、やはりすぐには馴染まない。

なお、上記のデータセットには「国文研データセット簡易Web閲覧」を用いてアクセスしている。じつに軽快に動く電子データの閲覧環境が構築されていて、いま問題にしている箇所もここをクリックすればすぐに見ることができる。

2016年6月5日日曜日

「生活百景」のリンク

「古典画像にみる生活百景」を公開してすでに四ヶ月ほど経った。ここ数日、そこに用いたオリジナル画像をあれこれと読みなおしているうちに、半分程度を占めるリソースの「e国宝」については、作品のリンクではなく、表示画面のリンクを添えるべきものだと気づいた。とんでもない手落ちをしてしまい、慌てて集中して作業を再開し、「e国宝」関連のリンクを改めて取得し、サイトを更新した。

正直に言うと、サイト制作をしているうちに、オリジナル画像への連結には、少なからずに気になっていた。作品の、複数の巻がある場合巻の、リンクを用いていて、短い作品なら大して問題にもならないが、長い作品となれば、所定の段までたどり着くことにはまず一苦労だし、屏風など画像密度の高い作品となると、目指すところを探しだして特定することは、見慣れない読者には、あるいは急いで見ようとする場合において、それなりに負担となる。それに対して、いま更新したリンクについては、クリックするとさっそくほぼ同じ構図のものが一発目の前に飛び出してくれて、じつに使いやすくて、気持ち良い。

このささやかな経験から、「e国宝」の行き届いたデザインにあらためて感心した。しかも英語や中国語など違う言語にまで対応してくれている。もともと「e国宝」は、使い方の説明を丁寧に提示しているが、ただそのような説明文をゆっくり読むような習慣は個人的にいまだ身についていない。あえて付け加えるならば、現在表示画面へのリンク取得という機能のボタンは、「URLの表示ボタン」という説明が施されていて、必ずしも明確ではないことをここに記しておこう。