2021年2月27日土曜日

似せ絵

昨日、「日本古典籍セミナー」を聴講した。二つの講義が行われ、それぞれ一時間とじっくり時間をかけて肖像画、奈良絵本について語られ、たいへん勉強になった。

個人的には、黒田智さんが取り上げた「公家列影図」にとりわけ惹かれた。画像内部に立ち入り、画像をもって画像を検証するというアプローチには、その手法の鮮やかさが印象に残り、その有効性にインパクトを感じた。あわせて57人と数える大臣の顔ぶれをユニークに描かれたこの一点は、絵巻の中で異色的な存在であり、早くからその読み方に躓き、敬遠していた。そのようなところに、描かれた人物同志の、親子、兄弟など血縁関係をもった者の比較、髭や皺などビジュアル要素を手がかりにした分類などが指摘されて、なるほどと納得し、いわゆる似せ絵といわれる由縁をあらためて知らされた。一方では、描かれた人物は互いに百年以上の距離を持ち、それぞれの人間のほんとうの顔を絵師がたしかに知っていたとは考えられず、人物の年齢表現にも極端な虚構が見られるなど、同作品の理解にはまだまだ多くの課題が残されているとの思いも強くした。

現地で午後に行われた行事は、地球の裏となると深夜から真夜中すぎとなった。同じ北京開催のシリーズの三回目にあたり、一年遅れての実現だったと聞く。いうまでもなくオンラインでなければとても参加が叶わなかった。妙な形でコロナから恩恵を受けた格好だ。いまの非常事態が過ぎてもこのようなもありがたい可能性が受け継がれることをせつに願いたい。

2021年2月20日土曜日

研究会で語る

一か月ほどまえに予告していた研究会(「古文講座」)は、予定通りに開催され、自分の発表も無事済んだ。世界各国から集まってくる参加者を見越して開催の時間設定が変則なもので、日本時間の深夜、こちらのローカルの時間は早朝六時開始といったスケジュールだった。事前申請は82名、実際の参加者は60名超、まさにリモートならではの世界的な集まりになった。

振り返ってみれば、じつに実りある交流だった。後半の全体討議においてまっさきに持ち出されたのは、古文教育の意味やその有効性だった。日本国内でも古典教育存続をめぐる議論が注目されるなか、それがそっくりそのまま海外中心の場にまで波及したという恰好になった。集まってきた研究者、教育者の顔ぶれによるところが多いが、肯定的な見解が圧倒的で、とりわけ教育現場から日本語学習者たちからの古文への熱い視線がしっかりと語られ、なによりだった。このほか、美術史など隣接分野からの声、漢文教育までの展開、独学への配慮、オンライン資料との向き方、朗読への関心、はてには三年も続くような本気度の高いプログラムの存在など、さまざまな情報や見解が披露され、まさに充実なものだった。

ZOOM開催の研究会は、開始15分前から参加者が参加できるように主催者が配慮した。互いに見知らない人が多いなか、「Kobun-Online」に関わった三人は二十年ぶりの顔合わせとなり、ひと時の雑談が交わされた。対面の集まりならこういう時間こそ貴重で生産的なものだが、リモートではきわめて限定的なものにならざるをえない。これをいかに変えるのか、模索が続く。

2021年2月13日土曜日

春節の舞台

農歴の暦では、12日の金曜日をもって辛丑年に入った。ここに春が始まったことを祝賀し、新年の挨拶を申し上げる。中国では、爆竹など伝統的な春節の祝いは安全などの理由からかなり前から忘れられ、その代わり、「聯歓晩会」という名のテレビ特番が年越しの代名詞となり、いまそれがさまざまなチャンネルに乗って放送され、世界のどこでも簡単に受信できるようになった。

今年は、その中で一つの踊りが話題になった。絵巻を読む目にはとても素晴らしい刺激を与えてくれている。踊りのタイトルは『唐宮夜宴』、このリンクなどから見られる。かつての唐の盛況を宮廷の踊り子たちの姿に託し、王朝の美を追い求めたものだった。その踊り子たちは、ひっそりとした美術館から現われ、やがて色とりどりの山水画の中に入り、夢のような澄み渡った宇宙ではしゃぎ、そして宮廷の上に登って舞う。絢爛を極めて、忽然と絵の中に戻っていった。まさに一巻の最上の絵巻が動き出したものだった。なかでも、今日の審美に悖る太った踊り子たちの身なり、絵だけでは想像も及ばないコミカルで微笑ましい歩き方、互いに戯れる溢れんばかりの生命力など、どれも眺めていて古代の世界に迷い込んだ思いだった。

ちなみに数年まえまでは春節の舞台といえば中央テレビ局独占のようなものだったが、いまはテレビの地方局も競うようにこれに取り組んだ。この話題の踊りも河南省放送局の特番の一つである。地方の活力や魅力を感じるということも、大いに感慨深い。

2021年2月6日土曜日

スマホ・古文講座

Glideを利用してアプリの四作目を仕上げた。今度もすでにある特設サイトの内容をそのままスマホに移植するというものである。特設サイトは、「インターネット古文講座」である。旧友と二人で中味を書き上げたもので、HTMLに使うジャワ言語の初歩をマニュアルを齧りながら覚え、見よう見まねで仕立てた。数えてみればすでに20年もまえのことである。幸い今でも動いていて、そこでスマホに取り入れるという長年の念願を実現した。

古文講座は、もっぱらテキストに頼るものである。その構成は、各文法項目の解説と、それを確認する単純なドリルである。Glideを使うためにすべてのドリルをGoogle Sheetに導入することから始めなければならない。そこでやってみると、ドリルの総数はなんと700も越えたことに気づいた。Glideの無料バージョンは、データ数を500までという制限が設けられている。制作の狙いはあくまでもリソースの無料提供であるため、つとめて料金を支払うことを避けたい。そのため、二部構成を取り、前編は動詞、助動詞、敬語、後編は形容詞、形容動詞ということに決めた。内容的にはちょうどバランスよく、利用者にもさほど負担にならないのではないかと思われる。

あらためて内容を見返すと、解説の部は文法の細目をつとめて漏れないことに気を使い、ドリルは機械的な反復のようなものに終始した。このテーマに関心があれば、解説を読み、ドリルの答えを見るボタンをクリックしながら眺めるというのも一つの使い方だ。なお、「App: CJ5M」はこの文法解説の枠組みを受け継ぎ、あわせてアプローチにも若干ビジュアル的なものを加えた。ついでに記しておく。

App:インターネット古文講座、動詞、助動詞、敬語
App:インターネット古文講座、形容詞、形容動詞