「こていでんわ」、「かにゅうけんりょう」。これらのやや聞きなれない言葉をめぐって、わたしの「日本語ウォッチング」を記してみます。断っておきますが、カルガリーで暮らしていて、日本の雑誌や新聞などを読む機会はほとんどなく、日本との繋がりは、NHKのニュースを一日に一時間見ることぐらいです。
大学で二年生のクラスを担当していて、二週間ほど前のレッスンの内容は「電話」でした。電話番号の言い方から電話口での挨拶、文型や表現など一通り触れて、自然に日本の電話になります。いまや電話といえば携帯電話、しかも日本のそれはとにかく機能が盛りだくさんで、いつの間にか電話という名前ではまったく捉えきれないものになってしまいました。テレビニュースに登場したものから覗いてみても、書籍や新聞記事を読む、手帳や辞書を置き換える、携帯デジカメに早変わりする、というのは当たり前で、予想もつかない奇抜な機能も続々と現れてきます。たとえば、買い物の支払いや駅の改札に持ち出す携帯財布や携帯パス、大都会で放送され始めるデジタルテレビ番組を受信する携帯テレビ、三次元バーコードを読み取る携帯スキャンナー、などなど、どれも目新しいものばかりです。圧巻は、街角に流されている音楽のメロディーを録音してしかるべきところにダイヤルすれば、タイトルや歌手などの情報をすべて教えてくれるというサービスまで始まったと伝えられます。電話という名のツールを持たせて、消費の網は無限に広がっていくという、いかにも日本的な暮らしの風景を垣間見る思いがします。
ここに冒頭の言葉、「固定電話」に戻ります。以上のような華々しい携帯電話の活躍により、電話という言葉も大きな膨らみを持ち、家庭のなかに据え付けたそれは、いまや「固定」という言葉を添えないと、すぐには思いつかなくなる恐れまで出てきました。その固定電話が話題になったのは、いわゆる「加入権料」とセットになっています。加入権料とは、正式な用語では「施設設置負担金」と言って、電話を取り付けるときに支払う料金のことです。日本での短期滞在などでいつも難題の一つとなり、宿舎などに入居して、目の前に電話機まであるにも関わらず、常識はずれの金額を請求される経験をもつ人が多いでしょう。ニュースになったのは、この加入権料を廃止するということです。しかもその決定は、消費者に歓迎されるものではなく、不評や不満の声が上がっているとか。すでに固定電話を持っている立場から、固定電話の価値が下がるとの理由のようですが、いま一つ理解できません。これも日本で暮らしていないがために、物事の受け止め方に差が出る典型的な現われでしょうか。
言うまでもなく、初級の日本語学習者には以上のような情報は必要ではないでしょう。だが、わたしのクラスでは、このような言葉を二分以内の時間で英語で説明してあげる、というやりかたを取っていて、いまのところ好評なようです。言葉に込められた感情や位相は、実際に使ってみないと身につくものではありませんが、関連する情報の解説は、大学生には一つの学習の手がかりになり、違う社会生活を眺める楽しい視点になることを期待します。
同じクラスで、電話のレッスンに続いて乗り物を取り上げます。そこにテレビは、運転中の携帯電話使用を取り締まるニュースを伝えてくれました。三万五千人もの警察が一斉に出動して、六千人以上の違反者を検挙したとの報道に続き、その取り締まりへの対策となる携帯電話の付属商品「ハンズフリー」を取り上げました。NHKもなかなかユーモアを心得ています。このように、電話生活と車社会が思わぬ形でつながって、言葉が無限に広がっていきます。
2004年12月1日水曜日
日本語ウォッチング
Newsletter No. 29・2004年12月
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