大学の春のコースを担当して、20名の学生を語学研修に東京へ連れて行くことになった。元気はつらつな学生たちには、調査や研究のプロジェクトを課す。若者たちはそれにはきちんと応えてくれる。そこで、勉強をさせるだけでは能がないと思い、半分学生たちの情熱にほだされながら、自分もなにかをやってみようという気になった。思いついたのは、インターネットで流行のブログだった。名付けて「日本語の風景」。
ブログとは何か、いわゆるホームページとはどう違う、とすぐ聞かれる。手短く言えば、本質的な違いはないと考えてよい。あえて言えば、ホームページは人間あるいは特定のテーマを取りあげ、それについての体系的な情報なり知識なりをまとめて載せる。対してブログとは、ほぼ定期的な情報の追加を特徴とする。言い換えれば、前者は考え抜いたものを丁寧に構築して、それをいっぺんに公開するのに対して、後者は特定のテーマをめぐり、現在進行形に内容を付け加えていく。それから、読者の発言がそのまま公表できるのも、ブログの基本機能になっている。現実の中では、ブログを発信の場とする人が多く、Google、Yahooなどの大手のプロバイダーが提供するスペースやパターンをベースにして、驚くべき広範囲の、深みのある議論が交わされている。
その中で、わたしが選んだテーマは、仕事の対象である日本語である。言葉そのものだけを議論の対象にするのではなく、日本語の使用者、学習者、さらに日本語を第二外国語として習った経験者といった、複数の立場を交互に取ることにした。いわば日本語への観察や思考を通じて、日本語の豊かな表現、楽しい仕組み、場合によってはいささか理不尽な言い回しなどをメモ風に記していく。以上の考えを気軽に読んでもらえるように、一つひとつの条目には、テーマに沿った写真を添え、広がりを持つように関連のサイトを一つないし二つ選んだ。さらに自分のクラスの学生たちにもある程度意味が伝わるように、毎回二、三行の英語によるハイライトも付け加えた。
ブログとは、定期的に書き出すものである以上、それを実践しようと思った。やや過酷だと承知しながら、一日一題を自分に課した。正直に言って、このような経験はこれまでまったく持ったことがない。はたしてそれが可能かどうか、それをこなすためには、どのようなリズムをものにしなければならないのか、まったく未知の世界だ。でも、その分、スリリングな挑戦にも思えた。ただし、自分にはそのような決心が実行できるように、「六十日限定」という逃げ道を用意した。このブログを学生たちと一緒の旅行の土産にし、旅行が終わるころには終止を打つ、ということだ。たとえて言えば百メートル競走の覚悟で取り掛かる。競走には気力を搾り出すぐらいの苦労がつきものだ。そこまでしても得るものは、もちろんあるはずだ。自分に観察や思考を促すきっかけ、そのような考えをおぼろげにも形に残しておく仕組み、そしてそれを他人と交流できる形で発表する場をもつこと、挙げてみればまずこれぐらいのことは言えるだろう。
ブログの大きな魅力の一つは、同じテーマに関心をもつ人々と交流できることだ。それは、毎日なにかと書き出しているわたしのささやかな夢でもある。皆様もどうぞお暇なおりにでも覗いてください。そして、「友情出演」ならぬ友情投稿を期待したい。
(日本語の風景:http://nihongo2007.blogspot.com)
2007年6月1日金曜日
ブログ・日本語の風景
Newsletter No. 34・2007年6月
Labels: 雑誌投稿
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