2007年10月2日火曜日

「絵巻三昧」

絵巻のことは、その存在を知ってからずっと惹きつけられる思いを抱いている。最初の出会いは、確か留学生として京都大学の文学部に在学していたころのことだろうか。時計台の下にある、いつでも人ごみの中にいながらも不思議に静かな時間が持てる生協の本屋で、出版されたばかりの『日本の絵巻』を手にした。何も描かれていない空白の部分まで豪華な写真印刷に納めたことへの感動と、その意義について思い返したことは、いまでも鮮明に記憶している。

絵巻は、ストーリーを伝えるものであり、間違いなく文学の作品だ。だが、それは美術品としても一流であり、かつ写真印刷が十分に普及するまで、一点の作品の全容を見ること自体ままならない時代においては、文学的なアプローチがごく限られていたことも否定できない。そのような意味において、絵巻についての本格的な研究は前世紀の八十年代以後のことであり、しかも現在でも、ようやく大学の基礎教育に取り入れられはじめたのではなかろうか。その中において、私自分も新出底本の紹介や翻刻、表現内容の読解など、いわば伝統的な文学研究の手法を応用した絵巻研究を試みた。

一方では、過去二十年において、電子メディアの発達は、写真技術の普及よりはるかに早いスピードで進み、現代における絵巻の再生と伝達のために、比べ物にならないぐらいの影響をもたらした。電子メディアの可能性にあやかって、絵巻の注釈、文字認識の伝達など、一人であれこれと模索してきた。プログラムまで自前で作成したりして、まさに試行錯誤の連続だった。想像と技術の可能性による創造は、つねに研究生活においての活力の翼だと繰り返し教わったとありがたく思う。

二〇〇七年の夏から、勤務大学から一年の研究休暇が与えられ、国際交流基金の助成を受けて東京で八ヶ月にわたる研究生活を送る。この間、かねてから思い描いていた「絵巻三昧」を体験しようと思う。そして、このささやかなブログを開設して、その時その場に思いついたこと、読書や活動の内容などをメモ風に書き溜めていく。

ブログ・絵巻三昧が、刺激な知的な出会いと新たな交流の場となれるように祈りつつ。

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