読書週と名乗る一週間の大学講義の休講で静まり返ったキャンパスで、去る火曜日、いたって文化的な夜を過ごした。三百年以上も前のイギリス劇作家の作品がステージの上で再現され、蘇ってきたものだった。
劇の名前は「Humorous Magistrate」。日本風に言えば、さしずめ「可笑しな大名」といったところだろうか。十七世紀のイギリスが背景となり、権力を握る傲慢な官吏、かれを囲むさまざまな人間、家族や富をかけてのやり取りと取り引き、若者の愛や年寄りの欲望といったさまざまな魅力あるテーマをコミカルに、ところどころ色気たっぷりにステージの上に展開されて、三時間近くにわたって、大勢集まってきた現代の観衆を楽しませた。
演劇の実現は、じつは一つの学術研究プロジェクトの結果だった。劇の脚本は、数十年前に大学図書館がまとまって購入した古書籍の中の一点で、長く書庫に眠ったまま、英文学の教授によって発見された。それからは五年間以上の時間にわたって、大学院生への授業に取り上げられたり、違う分野の教授、世界の学者と協力して調査が行われたりして、研究が重ねられてきた。その間には、同じ劇のより早い時期の草稿が発見され、二つの原稿を、それぞれ1632年以後と1640年以後と作成時期が特定され、作者不明のままだが、シェークスピア劇を愛好者で、その影響を深く受けていたと、作者像の追求にも手掛かりを現われた。シェークスピア劇の研究と同時代への認識において大きく寄与するものだと特筆すべきものだろう。
中世文学研究の成果報告を学術の論文やらシンポジウムやらに止まらず、さっそく実際の舞台に持ち出し、形のあるものに変えて一般観客の目に触れさせるようにする。いかにもヨーロッパの正統な伝統を踏まえての英文学研究のスタイルだ。異なる文化的な大事な側面を覗けたような気がしてなぜかわくわくした思いに打たれた。
1 件のコメント:
こんにちは。「中世劇」と検索していてこちらのサイトにたどり着きました。古いポストへのコメントで恐縮です。観劇が趣味で、また学生としてイギリス演劇を勉強していますので、この劇もそのうち読んで見たいとと思いました。こんな劇があったなんて知りませんでした。
ところで、この劇は1632年と40年の草稿ということです。一瞬間違いかと思いましたが、やはり「草稿」なんですね。刊本でなく、草稿であるところにびっくりしました。ただ、1632と40年とすると「中世劇」というのはおかしいと思います。近代初期、日本で言うと近世、でしょう。イギリス中世は15世紀まででしょうから。
Yoshi
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