友人に誘われて、木津川市で開催されているある特別展を見てきた。けっして規模は大きくない、どちらかと言えば地域密着型文化施設による主催だが、しかしながら、木津川という地を共通テーマにもつ中世や近世の絵画資料を中心に据え、中には、地元のお寺などが所蔵する五点の絵巻が一堂に集まったことに、少なからずに驚いた。関西地域の薀蓄や歴史の厚みをしみじみと感じさせられた。
展示の中の一点、「蟹満寺縁起絵巻」は、最近になってその存在が報告され、初めて公共の場で展示されるものである。描かれたのは、動物報恩という中世の人々が好んで語るテーマだった。絵巻全体の構成から言えば、ある意味では異様なまでに動物と人間との間の恩と報恩を訴えた。現存四つの画面のうち、親子がそれぞれ蟹と蛙を助けるという二つの場面に続き、輝くような男に装う蛇の来訪を受け、そして最後は、いささか血なまぐさい、グロテスクな人間蛇退治ならぬ蟹の蛇噛み殺すというハイライトが展開される。ただし、人物の服装や建物などを描く絵は、どれも色使いが輝かしくて、暗澹な思いなど微塵も感じさせない。むしろ二種類もの動物に救いを与え、蛙と蟹によってそれぞれの形で感謝され、恩を報いられるというダブルの救助、報恩という話のユニークな内容は、あくまでもめでたくてありがたい。展示室に陳列されたのは蛇に襲われる蛙を救った場面である。蛇の口から逃れた蛙は、なぜかすぐそばにある川に飛んで帰るのではなく、人間のいる方向へやってくるのだった。しかもまるで赤ちゃんのように両方の前足を伸ばし、会話まで持ちかけているようで、見ていて微笑ましい。
特別展は12月11日まで。時間を作り、電車を乗り継いで訪ねて、一見する価値が十二分にある。
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