去年の初冬、東京での国際集会に招かれ、古典の画像のテーマで発表をした。あの時の報告書はようやく出版され、今週届けられた。思えば、同じ集会には七年前にも参加し、かつその時のネットワークはいまだ貴重な形で続いている。報告書の作りもあの時のものとはまったく変わらず、あえて言えば、今度のは決まったテーマがないがため、報告書も「会議録」と名乗るのみに止まったぐらいだ。
実際に取り上げたのは、絵巻に描かれた恋物語りの定番の構図だった。似たような構図はかなりの数にわたって認められ、それらを一つの型として観察するという試みは、大分前の論考で試した。それに対して、今度は典型的な恋愛ものの一篇として「なよ竹物語絵巻」に絞り、対象の場面を具体的に分析した。そこでまっさきに直面した問題は、このような構図をまとめてどういう称呼を与えるか、というものだった。発表のタイトルには、わざとぼやけて「男女の間」とした。当然ながら、恋、密会、ひいては情愛、クライマックス、どれを持ちだしてもそれなりの根拠があり、正直かなり迷った。いうまでもなく、思い切って中世の書物に用いられた言葉である「並び居る」(『十訓抄』)まで取り出すことも出来よう。言い換えれば、ただのキャッチーフレーズのための言葉の遊びではなく、このような言葉の幅に比例するだけの絵の表現の豊穣さがあるものなのだ。
発表の内容は公にするとのことは確かに事前に知らされており、印刷物まで出来上がったのだから、当然電子バージョンも公開されているだろうと思ったが、これは意外にも思い違いだった。調べてみたら、公開するための枠組みがたしかに用意されているが、いまだ中身が入れられていない。どんな作業でも時間が必要だということは、分かっている。しかしながら、研究を最大の主旨とする国家機関は、成果の公開を率先して取り掛かるのではなく、むしろ一番用心深くやっていることは、いささか嘆かわしい。
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