「吉備大臣入唐絵巻」を読みなおしている。研究書などはさておくとして、それよりも原典のデジタル公開はどこまで進んでいるかと思い、キーボードを叩いてみた。所蔵は、アメリカのボストン美術館。キーワードを入れたらほとんど即時に絵巻全巻のきれいな画像がスクリーンに踊り出てきた。タイトル表記には、アメリカの美術館ながら日本語もはっきりと施されている。
いまさら繰り返すこともないが、単純に画像の読みやすさで言えば、デジタル画像は、出版物よりはるか上質なのだ。一方では、ボストン美術館の場合、いわゆる悪用防止のための対策なのだろうか、画像の提示は限られたスペースで行われ、画面を移動しながら細部を覗くというやや古めかしい方法を用いている。興味深いのは、画像に添えられた文字情報の内容だ。あくまでも簡単な基本情報だが、そこでなにを基本情報と捉えるかが美術館の真骨頂だ。ボストン美術館の場合、それは特定の作品の入手経路関連のものだ。この絵巻については、近世以後の伝来、とりわけ美術館に入った経緯やコレクションの所属などが、限られた文字スペースの中で細かく記述されている。作品の中身は専門の研究書に任せ、美術館の責任所在を明らかにするという立場は、かえって新鮮だ。そして、それよりも大きな文字にて使用方法のボタンが配置されている。クリックすると、料金詳細こそ明記されていないが、使用するための申請方法が分かりやすく提示されている。
画像のアドレスを見れば、四巻構成の絵巻は四つのタイトルとして取り扱われ、それが通し番号になっている。隣の作品はなんなのかなと、好奇心半分に数字を入れたら、飛び出してきたのは、あの「平治物語絵巻」の炎上の画面と、「パニックしないで」との文字だった。いささか面食らった。続きの説明を読めば、「お探しのものは存在しないか、移動されている。キーワードを入れなおしなさい」とのことで、ガッテンした。なるほどただの文字での説明よりは凝っていて、美術館一流の洒落が託されている。
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