2019年5月18日土曜日

狸の腕

絵巻の読み方、読む楽しみを伝えるために、まんが的な表現を用いてはと、「まんが訳」と名乗って、あれこれと試行錯誤をしている。(劇画・絵師草紙)漫画風の表現と言っても、いうまでもなく無限にあるもので、簡単に正解が突き止められるものではない。

絵画表現にある動きを伝えるのに、どのような表現がありうるのだろうか。一例として、「十二類絵巻」に描かれた詞戦いの名場面を取りあげてみよう。ここに、一つの大胆な対応として、絵巻の部分的な場面を切り出したり、組み合わせたりするに留まらず、絵そのもの中身に手入れをしてみた。強気の発言をする狸が力強く振り上げ、前方を指し示す腕に注目し、その動きを強調した。まんがなら定番な表現法である。もちろんこれにさらにまんが特有の擬態語などまで加えたら、いっそうそれらしく見えてしまうだろう。ただ、一枚の画像の空間には限りがある。余分なものを入れてしまうと、もともとの構図はすでに存在しない。十分に覚悟をしておかなければならない。

デジタル環境においては、画像を変えたりすることは、技術的にはごく簡単になった。その分、表現の自由が手に入れたところで、それをなにが使うのか、どう活かすのか、けっして自明なことではない。表現への模索は、いまから始まるものだ。(画像に用いたのは、国会図書館蔵「十二類巻物」である。)

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