2020年12月12日土曜日

朗読動画:『猫の艸帋』

子の年も、残り少なくなってきた。鼠のしっぽを捕まえようと、朗読動画を一タイトル公開した。御伽草子のうち、『猫のさうし』である。これまでの朗読動画と同じく、朗読の音声にあわせて読まれる文字に罫線をかけて移動し、奇想天外のお話を楽しみながら、中世の文章にも慣れればと願っている。

物語はじつに楽しい。主人公は猫には違いないが、実際の会話などで登場した鼠のほうは、主役の猫と互角以上の枚数を取った。地名や行事名、日常の品々のリストを巧に折り込んで童蒙を解くための工夫を凝らしたことは、お伽の役目が成せるわざだが、それを承知したうえで取り掛かっても、興味はつきない。老僧の口を借りて開陳された鼠への非難、批判といえば、唐笠や袈裟を破り、煎豆、坐禅豆を盗み喰いしたなどお坊さんの日常に近いものを始め、扇、物の本、はりつけ屏風、かき餅、六条豆腐を台無しにしたなど、人びとの日常に関わるものを数え上げ、鼠害に対する切実な声が込められた。

思えばこのような猫や鼠に対する視線は、時代を超えた、ある意味では時間軸が存在しないようなものだ。しかながら、物語を丁寧に読めば、妙な一行があった。曰く「近江国御検地有」って、「百姓稲を刈らぬ」云々とのことだった。思わぬ形で時の政治や社会生活にどさっと立ち入った。この件は、はたして虚構なのか、そもそもわざわざ時勢を刺さることを狙ったのだろうか、答えを知りたい。

御伽草子『猫のさうし』

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