2007年11月24日土曜日

カタログ・鳥獣戯画展

水曜日、サントリー美術館の「鳥獣戯画がやってきた!」を見てきた。人ごみにもまれて、国宝絵巻をじっくり眺められる至福な時間を得た。戻ってきて、いくつかのキーワードでネットを検索したら、この展示についてのブログの書き込みの多いことに驚いた。一つの展示会がいかに古代と現代の感性を繋いだかを見た思いがした。

前回、カタログのことを取り上げたので、その続きを書こう。

期待していた通り、カタログにはいくつかの工夫が施されて、とても愛嬌がある。内容的には絵巻を全点取り入れて、充実な周辺展示を大きく記録して、申し分がない。そして、内容よりも外装でアピールすることに製作者が意気込んだと見る。横長の体裁に加えて、透明のプラスティックのカバー、それに小洒落なエコバッグまでついて、買う気を誘う。

一方では、予想しなかったのは、売店の目立つ
ところに置かれたもう一冊のカタログ、「絵本 鼠草子」だった。まるで国宝の展示に便乗したような格好にはなるが、手に取ってみて、製作者の遊び心のようなものをひしひしと感じられた。取り上げられたのは、普通ならこのような規模のイベントでも十分主役に務まるものでありながらも、展示会場の一角に押しのけられて展示された絵巻「鼠草子」である。

正直に言うと、カタログの名前には、かなり困惑した。その意図は、絵巻という作品を、印刷された一冊の本に仕立てた、サントリーのオリジナル「絵本」ということなようだ。ただし、室町時代に膨大な数に作られ、現在ますます注目を集めている、通称「奈良絵本」という名の作品群が存在しているから、このタイトルは誤解を招きかねない。念のために、展示され、このカタログの対象となったのは、一巻のりっぱな巻物だった。しかもそれは三十年前に出版された「日本古典文学全集」(小学館)の底本になったもので、広く知られている。

このカタログの一番の工夫は、「絵本」と名乗って、すでにもとの絵巻ではないということを主張しているがごとく、絵に描かれたかなりの分量の「画中詞」をすべて現代語訳して活字の仮名で置き換えたものだった。絵と仮名との構図はここに見られない。代わりに現代の漫画でも読んでいるような錯覚を感じさせるような、ユニークな絵と分かりやすい「吹き出し」だった。

いうまでもなくこのような思い切った措置により、この名作を楽しむ新たな読者の開拓ができるに違いない。一方では、わたしの目には、あらためて印刷物の限界を感じてしかたない。一枚の紙に印刷する以上、古風の仮名かあるいは現代の活字か、けっきょく一つしかできない。もともと印刷のコストを倍にできるものならば、カラーにてオリジナル画面、白黒にて現代語吹き出し、ということもできるだろう。白黒だと、現代の漫画にいっそう近づけるかもしれないと付け加えよう。

絵本 鼠草子

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