2010年10月16日土曜日

サーモンの秋

先週の週末のことである。月に一度はめぐってくる連休に、思い立って遠出の旅に出かけた。サーモン回流を見物するという、一度はこの目で見てみたいことをついに実行したのである。目指したのは「サーモン・アーム」という名前の町。「アーム」とは、ここで「腕」ではなくて、「わき枝」とでも取るべきだろうか。たどり着いた見物の場所は、山間の大きな湖であるShuswap湖の出水口に当たる狭い川である。水が浅くても、流れが冷たくて速い。そして言葉通りの、水の中で犇めくサーモンの群れ。まさに想像を超える光景だった。

101016もともとサーモンの生態は、はなはだ伝説的なものだ。ここで生まれた幼魚たちは、流れに乗って大洋に出かけ、延々四年にわたる生涯の旅を続ける。そしてその命が尽きようとしたころ、数千、数万キロの旅を終えて、再び生まれの地に戻ってくる。かれらは、体が全身真っ赤になり、産卵して、まもなくここで息を止めてしまう。したがってサーモンの見物も、年に一度のではなく、四年に一度の出来事だ。静かな川辺に立って、果てしない大洋の向こうから回遊し、激流を逆らってここまで戻ってきた生きものだと想像して、気が遠くなる思いだ。目の前にあるのは、ただただの浅瀬の川を戯れる大群の赤い魚たちだ。知らないでみれば、まるで池のなかの金魚、二匹ごとに連れ合って、のんびりとしていて長閑そのものだ。しかしながら、空中にみなぎるのは、鮮魚市場あるいはレストランの裏に隠された台所の匂いだ。目を凝らしてみれば、水辺や足元には巨大な魚の死体が散乱している。目に見えて、鼻で嗅ぎ取る死、そして目には見えないが、知識によって理解できる新たな生、この二つの極端が異様なぐらい一つの空間に凝縮された大自然の中に立って、まさに感慨深い。

週末の旅は、片道560キロだった。ホテルに一泊して、余裕のある時間だったが、帰りはあいにくの雨。散歩もままならず、雨中の露天温泉を楽しんで帰宅した。意外と疲れを感じない、リラックスした週末だった。

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