2011年12月10日土曜日

京都・柿

111210秋の風物詩といえば、もみじと並んで柿も鮮やかだ。木々の葉っぱがほぼ落ちきったあと、土色の枝に果実のみ残り、狭い庭先からしっかりと存在を訴えて、冬の足音が聞こえてくる街角にきれいな色を添えている。

京都で柿を賞でる。これだけでもどうしても学生時代の思い出が蘇ってくる。京都という地を知り、勉強の内容にすこしでも近づけたらと、思い立って狂言教室に通った。いまならもう考えられないビッグな経験になるが、それこそ日本一流の狂言師に、口移しで稽古を付けてもらった。しばらくは定期的に通っていたが、自分のなかでもきっとわずかな留学生活のなかでの短い経験にしかならないのだとの思いがあり、ときにはカメラやウォークマンまで持ち込んで、稽古の写真撮影や録音まで敢行した。外国人だということが理由だったのだろうか、師はいやな顔を一つもせずに平然と応じてくれた。写真や録音はいうまでもなく大事な宝物で、いまやそれをデジタルの形に置き換えて、若い学生たちといっしょに観る機会まで持ちえた。その時に覚えたただの一番は、まさに「柿山伏」。「あれに登って喰おう」というせりふは、いまなお独特の節回しに乗って記憶に戻ってき、周りに人がいなければ、思いっきり声を出して語りたい衝動に形を変えたりする。

いま住んでいる地は、関西でも有名な柿の産地だとは、最近知人に教わるまでには知らなかった。週末に散歩に出かけたら、道端にたしかに農家直販の店が軒を繋ぐ。申し訳ないぐらいのコインをさし出したら、表示された値段と関わらず、お婆さんは小さなダンボール箱を探し出して、いっぱいに詰めてくれた。地元の人々の暖かいもてなしにはたと心が打たれる。

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